2020年04月05日

[朝日新聞] 新型コロナ 途上国へも目配りを (2020年04月05日)

ウイルスに国境はない。たとえ先進国で封じ込めに成功しても、それだけでは不十分だ。医療態勢の弱い途上国で感染が広がらないよう、国際社会全体で協力することが欠かせない。

国連は先月下旬、途上国や紛争地域などで新型コロナウイルス対策に取り組むため、20億ドル(約2200億円)の人道支援を各国に要請した。

対象はアフリカやアジア、南米、中東の貧しい国々や難民キャンプだ。世界保健機関(WHO)や国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)など国連機関と国際NGOが協力し、医療器具や医薬品を提供する。

こうした国々は衛生状態が悪く、医療施設も整っていない。感染が爆発的に広がり、先進国を含めた世界全体にとって新たな脅威となる恐れがある。

グテーレス国連事務総長は「第2次大戦以降で最も困難な危機だ」と訴えた。国際社会はその言葉を正面から受け止め、協調を強める必要がある。

とりわけ懸念されるのがアフリカだ。アフリカ大陸で初の感染者が確認されてから約1カ月半でほぼ全ての国に広がった。感染者は全体で7千人台と、欧米に比べ少なく見えるが、検査態勢の不備を考えれば実態はより深刻だとみるべきだろう。

先日開かれた主要20カ国・地域(G20)の首脳会議は「アフリカの保健システムを強固にすることが、世界的回復へのかぎだ」と声明でうたった。その考えを実行に移したい。

感染症対策の基本とされる手洗いだが、アフリカでは水の確保が困難だ。ユニセフによると、サハラ砂漠以南のアフリカ諸国では、都市部の3人に2人、約2億6千万人が手洗いに必要な水やせっけんが手に入らないという。子どもたちを中心に慢性的な栄養不足も深刻だ。

こうした環境もあって、アフリカでは感染症との闘いがかねて日常化している。エイズ、結核、マラリアの3大感染症に加え、エボラ出血熱も流行が続く。そこに新型コロナが加われば、さらに重荷が増える。

日本は四半世紀以上前にアフリカ開発会議を立ち上げ、関係を深めてきた。昨夏の第7回会合では、保健医療分野での貢献も改めて表明した。国内で新型コロナ感染が急増しており、経済への深刻な影響も懸念される。その対策を十分に図りながら、途上国で苦しむ人々への目配りも忘れないようにしたい。

各国が自国での対策に注力することは当面必要だろう。だが長い目で見れば、それだけで感染症問題を克服することはできない。グローバル化した世界で感染症にどう向き合うか、国際社会が問われている。
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2020年04月04日

[朝日新聞] 滋賀再審無罪 司法の改革につなげよ (2020年04月04日)

自白は違法な取り調べによって得られたもので、信用できない。そもそも病死の可能性があり、殺害行為があったということすら証明されていない――。

03年に滋賀県の病院で患者の人工呼吸器の管を故意に外したとして殺人の罪に問われ、懲役12年の判決を受け服役した元看護助手の西山美香さんのやり直し裁判で、大津地裁はそう指摘して無罪を言い渡した。

事件はまさに砂上の楼閣だったことになる。刑事司法に関わるすべての人が、一連の経緯から教訓をくみ取り、過ちを繰り返さないための対策を講じていかなければならない。

裁判では、まず患者の死因が争点になった。判決は、有罪の根拠とされた「管が外れたことによる酸素欠乏」との鑑定結果は、解剖所見や診療の経過、他の看護師の供述などに照らして疑問があると指摘。「管を外した」という西山さんの自白についても、内容がめまぐるしく変わっていて、警察官による誘導があったと結論づけた。

判決によれば、西山さんには軽度の知的障害と発達障害があり、話す相手に迎合する傾向があった。取り調べた警察官に恋愛感情を抱き、優しい言葉をかけられるなどするなかで、捜査当局が描くストーリーに沿う供述調書を何通も作成された。

04年の逮捕から無罪までの年月を考えると、自白に頼る捜査の危うさと罪深さを痛感する。

しかし警察・検察はいまだに謝罪せず、再審公判でも自ら無罪を求めることはしなかった。捜査を断罪する判決が確定したいま、なぜこれほど長きにわたって西山さんを苦しめてしまったのか。徹底的に検証して、結果を公表すべきだ。

過去の冤罪(えんざい)と同じ問題が、この事件でも浮かびあがった。

一つは証拠隠しだ。警察は西山さんを逮捕する前に、「たんを詰まらせた自然死の可能性がある」旨を鑑定医が述べたという捜査報告書も作っていた。だがそれが検察に送られたのは、裁判のやり直しが決まった後の昨夏だった。再審でも争う構えだった検察は、急きょ新たな立証をしない方針に転じた。

起訴の前、当初の裁判中、そして再審請求があった後……。もっと早い時点で開示されていれば、事態は違った展開を見せたのではないか。証拠の取り扱いや審理の進め方について明確な規定がない再審手続きの不備も、改めてあらわになった。

無罪を言い渡した後、裁判長は「問われるべきは捜査のあり方、裁判のあり方、刑事司法のあり方。関係者が自分のこととして考え、改善に結びつけていかねば」と述べた。これを言葉だけに終わらせてはならない。
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[朝日新聞] コロナ医療体制 人・物の確保を早急に (2020年04月04日)

新型コロナウイルス対策として、厚生労働省が新たな指針を公表した。軽症者や無症状の感染者について、医師の判断に基づき、自治体が用意した宿泊施設や自宅で療養させる際の注意点などをまとめたものだ。

入院させずに健康観察をする方針自体は、すでに1カ月前に示されていた。しかし実際に運用するとなると課題が多く、なかなか進展しなかった。

東京などの大都市部で収容可能なベッドが満杯に近づき、ようやく具体的な手順が示された。医療崩壊を招かないよう、切り替えを急がねばならない。

ただ、課題は解消されたわけではない。例えば、宿泊施設には健康管理にあたる保健師や看護師を配置することになる。その要員をどう確保するか。ウイルス検査や感染者の追跡で手いっぱいの保健所の負担を、これ以上増やすわけにはいかない。地域の診療所や医師会などが積極的に支援すべきだ。

施設の従業員らが食事などの生活支援をすることも想定されている。感染防御に欠かせない知識やノウハウについて、研修の機会を確保するなどの対応が不可欠だ。国や自治体は相応の報酬を払い、万一の場合の補償の枠組みも示したうえで、協力を仰ぐ必要がある。

指針には自宅療養の際の留意点も盛り込まれた。だが、感染者のケアを家族に任せることの限界や危うさを指摘する声が、各方面からあがっている。無理のない話だ。状況や希望に応じて、施設に入れるようにする仕組みを整えてほしい。

何より、今回の指針の目標である重症者用のベッド確保は喫緊の課題だ。深刻な院内感染が頻発していて、一般病院の協力を得るのはさらに難しくなることも予想される。ここでも思い切った財政支援や損害補償を打ち出すことが必要だ。

今回のコロナ禍は、重症者を治療する集中治療室(ICU)や人工呼吸器などの備えが十分でない実態を浮き上がらせた。人口比当たりの日本のICUの数は欧州に比べて少なく、患者が急増した場合、早期の体制崩壊が予想されるという。

政府は人工呼吸器や人工肺装置(ECMO)の増産支援に乗り出したが、供給が軌道に乗る時期は見通せない。機器を扱える専門職の確保・養成も同時に進めなければならない。

安倍首相は、感染を防ぐ効果がほとんど期待できない布製マスクを、全世帯に2枚ずつ配布すると表明した。経費は数百億円という。救える命を救い、被害を最小限に抑えるために、いま、どこに、ヒトとモノを投入すべきか。優先順位を間違えずに施策を進めねばならない。
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2020年04月03日

[朝日新聞] 休校の継続 学ぶ権利、守る知恵を (2020年04月03日)

憲法が定める「教育を受ける権利」が、新型コロナウイルスによって脅かされている。

萩生田光一文部科学相がおととい、感染が増加傾向にある地域などでは、臨時休校の継続も検討すべきだとの見解を示した。東京都と大阪府は、5月の連休明けまで都立・府立の学校を閉じると決め、市区町村にも協力を求めている。

電車やバス通学の多い高校の休校はやむを得まい。幼小中の通学距離は短いが、子どもの健康を最優先に考えて、安全策に傾く自治体は多いだろう。小さな子を家で一人にしないよう、保護者の在宅勤務の拡大や、学校施設を使った居場所づくりなどの環境整備に、改めて知恵を絞らなければならない。

一方で政府の専門家会議は、「子どもは感染拡大の役割をほとんど果たしていない」とみている。知見を冷静に受け止め、感染者の少ない地域では授業再開に向けた施策を進めてもらいたい。一口に大都市圏といっても、状況は都市部と郊外とで違いがあろう。もちろん踏み切る場合には、分散登校や教室の換気の徹底など、文科省が先月示した対応が前提となる。

この先、休校がさらに長引いたとき、何より心配なのは学びへの影響だ。誰もが思い浮かべるのは、動画やデジタル教材を使った自宅学習の導入だろう。家庭の経済状態などによる格差を広げかねない面もあって注意が必要だが、急場をしのぐには有効な手立てといえる。

ただし昨春の調査では、パソコンなどの端末は全国平均で児童・生徒の5・4人に1台しかゆき渡っていない。政府はまさに今年度から4年間で4千億円余をかけて小中の「1人1台」の実現に乗りだしたところだ。

配備が進めば他の災害時にも役に立つ。メリハリをつけ、休校が長くなる地域を優先することは考えられないか。文科相が会見で言及した通信機器の貸し出しを含め、いまできる方策を急ぎ探ってほしい。

家にこもることに伴うストレスや運動不足は、心身の不調を招く。保護者も余裕を失うなか、虐待や栄養不足の心配が高まっている。家庭訪問や定期的な電話連絡、登校日の設定など、危険信号を見落とさない取り組みが求められる。子どもの居場所や親の相談相手になっている民間団体との連携や、物心両面での支援も大切だ。

遊びも勉強も満足にできず、友人や先生にも会えない。卒業式や入学式は簡略化される。つらい春だが、教室で仲間と学ぶ大切さを肌で感じ取っている子も多いのではないか。この体験が成長の糧となって将来かえってくることを、切に望みたい。
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[朝日新聞] 経産虚偽文書 「森友」の教訓 忘れたか (2020年04月03日)

法律で定められた手続きを忘れたうえ、それを隠すために虚偽の公文書を作成する。行政機関にあるまじき行為である。森友問題での財務省の公文書改ざんなどを受けた再発防止策の実が伴っていないことは明らかで、政府全体として重く受け止める必要がある。

経済産業省は、役員らの金品受領問題で関西電力に業務改善命令を出した際、事前に行わねばならない電力・ガス取引監視等委員会への意見聴取を失念していた。後から気づき、意見を聞いたが、ミスを隠すため、その日付を命令の前日とする虚偽の公文書をつくり、決裁したというのだ。

資源エネルギー庁の担当職員が発案し、上司の課長級の管理職が了承して指示、その上の部長級の幹部も承認していた。

その間、誰も止めなかったとは、組織ぐるみの隠蔽(いんぺい)と批判されても仕方あるまい。外部からの情報公開請求で発覚しなければ、ほおかむりを続けたに違いない。

「手続き上、不適切な点があった」としながらも、公文書の改ざんには当たらないという梶山弘志経産相の認識は甘過ぎる。監視委は経産省の業務改善命令案に「異存はない」と回答しており、日付は重要ではないというのだろう。

しかし、政府の行動を後から検証するにあたり、日時は最も基礎的なデータのひとつだ。「桜を見る会」をめぐって、招待者名簿の廃棄時期が大きな焦点となったことをお忘れではあるまい。

事の重大性に比べ、関係者の処分も軽いと言わざるを得ない。7人が対象となったが、国家公務員法に基づく処分は、戒告を受けた課長級管理職のみ。担当職員と部長級幹部は内規による訓告どまりだ。森友問題を受け、虚偽の公文書作成は「免職または停職」にあたると改めた人事院の指針にもとるのではないか。

安倍首相は2年前、研修の強化など、公文書をめぐる一連の不祥事の再発防止策を決めた際、関係閣僚会議で「政府職員一人一人がコンプライアンス意識を高めることが何より重要。公務員の文化として根付かせる」と力を込めたが、一向に浸透していないのではないか。桜を見る会をめぐる公文書のずさんな扱いなど、むしろ官僚のモラルはさらに低下しているようにもみえる。

経産省は関電に業務改善命令を出した際、コンプライアンス意識の欠如を厳しく指摘、「抜本的な見直しを早急に図る必要がある」と求めた。この言葉はそのまま経産省、そして安倍政権全体に向けられる。
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2020年04月02日

[朝日新聞] 感染症と経済 前例なき事態に備えを (2020年04月02日)

新型コロナウイルスの感染拡大が、日本経済に未曽有の打撃を与え始めた。急速で大幅な需要の減少に加え、防疫のために人為的に経済活動を抑えねばならないという、前例のない厳しい局面だ。政策当局は予断を持たずに迅速に状況判断し、国民に発信するとともに、適切な対応策を講ずる必要がある。

きのう発表された日本銀行の全国企業短期経済観測調査では、大企業・製造業の業況判断指数が7年ぶりにマイナスに転じた。中小や非製造業の業況感も悪化している。先行きもさらに落ち込む見通しだ。

雇用の指標も弱含んでいる。有効求人倍率が低下し、情勢判断から「改善」が削られた。

しかも、これらの指標は足元での内外の急速な感染拡大をほとんど織り込んでいない。3月中下旬以降、欧米では外出や移動の制限が強化され、国内でも東京都の外出自粛要請といった動きが広がっている。こうした事態がいつまで続くか見通すことは難しく、経済への影響は一段と深刻になる可能性もある。

政府も、3月の月例経済報告で、6年9カ月ぶりに基調判断から「回復」の文言を取り除いた。「新型コロナウイルス感染症の影響により、足下で大幅に下押しされており、厳しい状況にある」としている。

景気の山は18年秋ごろとの見方が多く、「戦後最長の景気回復」は幻に終わりそうだ。昨年初めから景気悪化を示すデータが相次いでいたにもかかわらず、政府は「回復」の表現にこだわり続けた。現下の困難な情勢に対応するためにも、判断の遅れを繰り返してはならない。

過去7年間、雇用環境の改善が日本経済を支えてきた。しかし、依然、非正規など脆弱(ぜいじゃく)な部分も残っている。雇用減→所得減→消費減→雇用減の悪循環が起きれば、新型コロナによるショックが、さらに増幅されかねない。休業補償や働き手の所得補償を徹底する必要がある。ウイルス禍の収束後に景気を回復させるためにも、経済の基盤を壊してはならない。

一方で、いまの需要減には、感染拡大防止策の結果という側面もある。通常の景気後退時にとられるような需要喚起策は、必ずしも適切ではない。医療分野への支出の十分な拡大に加え、リモートワークの環境整備といったデジタル化の促進など、防疫と相反しない策を重点的に検討すべきだ。

今後、感染拡大に歯止めがかからなければ、生産や流通が大きく制約されることもありうる。いろいろなケースを想定し、万一にも必需品に供給不足が生じることがないよう、目配りが欠かせない。
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[朝日新聞] 性犯罪と処罰 許さぬ仕組みを社会で (2020年04月02日)

被害者が守られ、加害者が適切に処罰されるためにどうすべきか。議論を加速させる時だ。

性犯罪の根絶にむけて、政府は関係する府省庁の会議を設けて対策に乗り出す。法務省では刑法改正の要否や内容についての検討が始まることになった。

折しも今年に入って、性犯罪事件で一審の判断を覆して有罪とする高裁判決が相次ぐ。いずれも昨年春、地裁が被害者の意に反する性交だったと認めながら、結論において無罪としたものだ。衝撃を受けた人々が性暴力に抗議する「フラワーデモ」を始める契機になった。

中でも注目されたのは、当時19歳の実の娘に対する準強制性交罪に問われた父親の事件だ。

名古屋地裁岡崎支部は、過去にこの被害者が抵抗して性交を拒否できた例もあったことなどから、同罪の成立に必要な「著しく抵抗が困難な状態」ではなかったとした。これに対し名古屋高裁は、被害者の精神状態を鑑定した精神科医の尋問を経て、逆の結論を導いた。

女性は判決後、自分のことを「まるで人形のようでした」とふり返っている。長期の性的虐待が何を生むか、改めて社会に知らしめる裁判となった。

性暴力に直面すると、心身が硬直して抵抗できなくなる。それまでの日常や自分らしさを失いたくない気持ちが働き、とりわけ加害者が親しい人だと迎合的に見える振る舞いをしてしまう。そんな被害者の心理が近年広く知られるようになった。

同意を裏づけるものとされてきた無抵抗などが、実は逆の事実を示す場合があることは、司法部内の研修などでも紹介されてはいる。だが十分に浸透していないことが、今回の裁判を通じて浮き彫りになった形だ。

捜査や裁判に携わる者には、こうした知見のうえに立って個々の事案に向き合うことが、今まで以上に求められる。

法制度自体が抱える問題も見過ごせない。性交を強いる犯罪は「暴行・脅迫」を用いたり、「心神喪失・抗拒不能」に乗じたりした場合に成立する。この要件をなくし、同意のない性交は全て処罰すべきだとの声は根強い。性犯罪を厳罰化した17年の改正の際も議論になったが、採り入れられなかった。

撤廃すると、同意の有無をめぐって水掛け論になり、冤罪(えんざい)も生まれるとの指摘に、一定の理がないわけではない。だが世界の流れは見直しにある。意に反する性行為は「性的自由の侵害」であり許されないと、刑法で明確に示す意義は大きい。

フラワーデモは、多くの被害者が長く沈黙を強いられてきたことをあらわにした。その声に社会が応えなければならない。
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2020年04月01日

[朝日新聞] 五輪日程決定 「完全な形」に縛られず (2020年04月01日)

延期となった東京五輪が来年7月23日に開幕することが決まった。パラリンピックは8月24日。いずれも今年予定されていた日取りのほぼ1年後で、曜日はまったく同じになる。

猛暑などを避けるため、この際、春や秋の開催にしてはどうかとの声もあった。だが、他の国際的なスポーツ大会への影響を最小限に抑え、かつ運営ボランティアの確保や期間中の交通事情の把握など、これまでの準備の蓄積をいかせる日程が、最も現実的だと判断された。

目標がはっきりしたことは、選手を始めとする関係者には朗報だろう。ただし、新型コロナウイルス禍の収束が開催の大前提であるのは言うまでもない。

にもかかわらず、どの時点で、世界がいかなる状態になっていれば最終的に実施に踏み切るのか、判断の基準や手続きなどは、国際オリンピック委員会(IOC)からも、日本側からも示されていない。

果たして責任ある態度といえるだろうか。組織委員会の森喜朗会長からは「神頼み」との発言も飛び出した。精緻(せいち)なものは無理だとしても、今後想定されるケースごとに対応策を考え、その内容をていねいに説明しながら、社会の合意を形づくっていく必要がある。

他にも課題は山積している。

たとえば、この夏、競技会場やプレスセンターになったはずの施設の多くは、すでに別の利用者の予約が入っている。選手村は大会終了後、大規模集合住宅に改装して分譲することになっていて、売買契約も進んでいる。これらをどう調整するか。補償話も浮上するだろう。

こうしたものも含めて、追加の経費はいくらになるのか。それをIOC、組織委、都、国でどう分担するのか。情報を公開し、人々が納得できる答えを見つけなければならない。

気になるのは、延期方針を打ち出した際に安倍首相が語った「完全な形での実施」という言葉だ。その意味するところは判然としないが、当初の構想に固執せず、「できること」と「できないこと」とを分けて、前者に注力する姿勢が大切だ。

競技会場の見栄え、開閉会式の規模、自治体による外国選手団の受け入れ・交流なども、それぞれの実情に応じて、現場に過重な負荷をかけることなく、柔軟な対応を考えたい。

IOCは6年前に「アジェンダ2020」を策定し、招致活動の見直しや、複数都市での分散開催の容認などの改革を進めてきた。肥大化が進んだ大会の持続可能性が問われて久しい。過去に例のない「延期」の作業を進めるなかで、五輪のあり方そのものを見つめ直したい。
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[朝日新聞] 関電の新体制 経営刷新、果たせるか (2020年04月01日)

次々と明らかになった問題に、ひとまずけじめと対策は示した。社外取締役を核とする新たな体制も打ち出した。問われるのは法令順守と企業統治をないがしろにしてきた経営の刷新、その実行と結果である。

原発がある福井県高浜町の元助役(故人)から、役員や社員が計3・6億円もの金品を受領していた関西電力が、経済産業省に業務改善計画を出した。

すでに社長らの辞任や取締役の報酬一部返上で11人を処分したのに続き、退任・退職者を含む約80人を対象に加えた。金品受領のほか、元助役の関連会社への工事発注の約束、不十分な社内調査と結果の非公表、監査役の機能不全についても責任を問うた。経営不振時の役員報酬カット分を退任後に補填(ほてん)した2・6億円も回収する。

経営体制では、社外取締役による監督を強化する。会長に、経団連会長も務めた榊原定征氏を招く。指名委員会等設置会社に移行し、役員の指名と報酬、監査の各委員会を社外取締役中心に運用する。工事の発注、関連自治体などへの寄付金や協力金を審査する委員会も設ける。

関電はこれまでも、著名な財界人らを社外取締役などに迎え入れてきたが、前代未聞の不祥事を防げなかった。失敗を繰り返すことは許されない。

とりわけ役割と責任が重いのは榊原氏である。

関電では定款に従って会長が取締役会の議長を務める。金品受領問題を調べた第三者委員会は、社外の経営者を会長にすえ、社長以下の執行部に対する独立性を保つために会長は代表権を持たないよう提言した。それに沿って榊原氏は代表権のない取締役会長に就く。

疑問を禁じ得ないのは、非常勤であることだ。様々な公職や複数の企業での社外取締役を務める榊原氏は、引き続き東京に拠点を置くという。それで関電の抜本改革に取り組めるのか。「関電内部に自ら深く手を入れ、いち早く社内の事情を把握するための時間と労力を割ける者とすべき」とした第三者委の注文との落差は大きい。

関電の経営の柱、原発事業との向き合い方も問われる。経産省の審議会「総合資源エネルギー調査会」会長を務める榊原氏は、会見で原発の重要性を強調した。しかしその役割はもちろん、不祥事で停滞と混乱が続く関電の原発事業を立て直すことではない。調査会会長を辞職する意向を示したのは当然だ。

「内向きの企業体質の是正は、揺り戻しや逆行が生じ得ることを覚悟しなければならない忍耐を要する課題」。第三者委の指摘を、榊原氏と関電はしっかりと受け止めねばならない。
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2020年03月31日

[朝日新聞] 辺野古問題 無理に無理を重ねる愚 (2020年03月31日)

ものごとの本質に目を向けず、細かな法律論を繰り広げた末に、一般社会の常識からかけ離れた結論を導きだした。そう言わざるを得ない判決だ。

沖縄・辺野古の埋め立てをめぐる県と国の訴訟で、最高裁は26日、県側の主張を退けた。

海底の軟弱地盤の発覚などを理由に、県が埋め立ての承認を撤回したのに対し、防衛当局がこれを取り消すよう国土交通相に請求。期待どおりの裁決をもらって工事を強行したため、県が裁判に訴えていた。

同じ内閣を構成する「身内」が裁決して便宜を図る異様さ。そしてその際に使ったのが、本来、行政機関から不当な処分を受けた国民を救済するために設けられている行政不服審査制度だというおかしさ――。

だが最高裁は、埋め立て法の条文に照らすと国の機関も一般私人(国民)も立場に違いはないと判断して、国側の脱法的な行為を追認してしまった。

木を見て森を見ないとはこのことだ。結果として沖縄の声を封殺した判決を、玉城デニー知事が「地方自治の理念に反し、将来の国と地方公共団体のあり方に禍根を残す」と厳しく批判したのはもっともである。

ただし今回の裁判で争われたのは手続きの当否で、埋め立て行為そのものに、司法がゴーサインを出したわけではない。

政府は軟弱地盤対策のための設計変更を近く申請する方針だが、県は認めない構えだ。辺野古ノーの民意が繰り返し示されているのに加え、3年以上かけて7万本余の杭を海底に打ち込むという工事が環境に与える影響は甚大で、到底受け入れられるものではないからだ。

にもかかわらず政府は、負荷を小さく見せることに腐心し、「環境影響評価(アセスメント)をやり直す必要はない」と言ってきた。最高裁判決の1週間前、辺野古の住民らが別途起こした裁判で、那覇地裁は請求は退けたものの、「埋め立てに際しては、改めて環境影響評価が実施されるべきことが考慮されなければならない」と述べている。当たり前の話だ。

社説で繰り返し指摘してきたように、米軍普天間飛行場の辺野古への移設は完全に行きづまっている。政府は辺野古に固執するのをやめ、普天間の危険性の早期除去にこそ力を尽くすことが求められる。

最高裁判決と同じ26日、沖縄県が設けた有識者会議は米軍の戦略構想も踏まえ、海兵隊を本土などに分散配置することが安全保障上も合理的と提言した。

政府試算でも1兆円近い巨費を投じ、軟弱地盤を「改良」して基地を造ることが理にかなうか。答えは誰の目にも明白だ。
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[朝日新聞] 緊急経済対策 長期戦に安心の備えを (2020年03月31日)

新型コロナウイルスの感染者が、東京など国内でも大幅に増え続けている。安倍首相は先週末の会見で「いつコロナとの闘いが終息するのか、現時点で答えられる世界の首脳は一人もいない」と述べ、国民には長期戦の覚悟を求めた。

休日や夜間の外出自粛が要請されるなど、生活をとりまく不安は色濃くなるばかりだ。

政府は来週にも第3弾の緊急経済対策をまとめる。長期戦ならば、人々の働く場と日々のくらしをしっかり守る決意を政策で示し、国民が安心を感じられるようにする必要がある。

具体策として、収入が急減した世帯や中小企業に向けた給付金が検討されている。納付期限のある税の支払いは1年間猶予し、赤字企業も負担する固定資産税は減免する。住宅ローン減税の条件も見直す。

首相は「社会的な不安が払拭(ふっしょく)された段階で、一気に日本経済をV字回復させる」ともいう。しかし、飲食店やホテル、イベント会社などでは客数や売り上げが大きく落ち込み、長引けば事業の継続すら危ぶまれる。

「損失を税金で補償することはなかなか難しい」と突き放すだけではなく、これまでに拡充した融資制度も状況に応じて返済を不要にするなど、さらなる工夫を重ねるべきだ。

資金繰り支援の窓口には、相談が殺到しているところもある。制度を整えたうえで、きちんと対応できる態勢づくりにも目配りが欠かせない。

自治体も、政府の支援を補完する対応を進めている。

大阪府枚方市や鳥取県は、休校などで子どもの世話をするため仕事を休んだ親への支援について、対象を政府より広げる独自の制度を決めた。宮城県富谷市は、内定を取り消された学生を市の1年任期の職員に採用しようと、募集を始めた。状況の変化や地域の実情に応じ、きめ細かな対応を考えてほしい。

緊急経済対策について、首相は「リーマン・ショック時を上回るかつてない規模」とし、自民党も提言案で財政支出を20兆円と打ち出した。しかし、いま大切なのは総額ではなく、困っている人々に確実に、支援の手を差し伸べることだ。

党内には、消費税の減税を求める声が根強い。しかし、事業者の手間なども踏まえれば、手をつけるべきではない。

提言案には、マイナンバーカードを持つ人へのポイント還元の増額や、観光地での宿泊割引なども並んだ。終息後をにらんだ特定の業界への利益誘導が先に確約されて、真っ先に専念すべき緊急性の高い生活支援や雇用対策が後手に回ることは、決してあってはならない。
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2020年03月30日

[朝日新聞] 大震災と子ども 心の傷癒やす支援を息長く (2020年03月30日)

宮城県に住む小学2年の女の子が、登校を渋るようになったのは最近のことだ。

東日本大震災の時は、まだお母さんのおなかの中にいた。仏壇の写真が津波で亡くなったお父さん。そう教えられ、毎朝、手を合わせていた。だが――。

「私だけお父さんがいない」

小学校に入り、授業参観や運動会があると、そんな言葉を口にするようになった。お母さんが黒い服を着ることをいやがり、津波の映像がテレビで流れるとチャンネルを変える。

■悩み、言えないまま

「人の死の意味が実感として分かってくる年ごろです。もうずっと会えないんだと、いま、喪失体験をしている。震災の影響は過去の問題ではなく、現在進行形。時間をかけて見守っていくことが必要です」

震災遺児の支援を続ける、あしなが育英会の「東北レインボーハウス」所長の西田正弘さんはそう話す。

震災で親を亡くした遺児は約2千人。両親をともに失った子は約250人いた。

「悩むこと自体がだめなことと思い、悩みを解消するのではなく、悩んでいる自分にふたをして、悩まない人間にならなければと強がっていた」――。厚生労働省の補助を受けて民間研究機関がおこなった調査に寄せられた、ある孤児の言葉だ。

中学、高校を順調に過ごしたのに、大学に進んで一人暮らしを始めたら、学校に行けなくなったという例もあった。

調査をとりまとめた東北大学の加藤道代教授は「みんな大変だからと、悩みを言い出せずに抱えこんでしまう子も少なくない。これから先、進学や就職など不安に直面する時期がある。そのときに、相談し、頼れる人や場があるといい」と話す。教授は、遺児や孤児から相談を受けてきた大学の「震災子ども支援室」の室長を務める。

■連携しフォローする

岩手医科大学にある「いわてこどもケアセンター」副センター長の八木淳子(じゅんこ)医師らのグループは、岩手、宮城、福島の3県で、震災後の11年4月から翌年3月に生まれた約220人の追跡調査を続けている。

きっかけは「落ち着きがない子が多い」「集団行動が苦手」といった保育士の声だった。震災5年後の調査では、認知と語彙(ごい)の発達に半年前後の遅れが出ていた。混乱のなかで乳児期を過ごしたことが関連している、とみられた。

結果を保護者や保育所、学校と共有し、医師が子どもとの関わり方を助言したり、必要に応じて医療機関を紹介したりした。こうした活動が功を奏したようで、遅れは取り戻されてきているという。

専門的なケアとともに八木医師が重視するのが、家庭と地域とのつながりだ。PTAや子育てサークルの活動に参加している保護者ほど心の状態がよく、子にも良い影響を与えている。

「地域に受け入れられ、気にかけられている。保護者がそう感じることが、子どもの心理的安心につながり、本来の能力を伸ばす後押しをしている」

ケアセンターに寄せられる不登校などの相談の中には、時間をかけて事情を聴いて初めて、震災の影響だと判断できるものが目立つようになっているという。そんな子どもたちを見逃さない取り組みが必要だ。

自治体の健診や子育て相談など親子が集まる場に医師が出向き、支援につなげているNPOもある。だが被災地にくまなく目を配るのは不可能だ。ここでも重層的な連携が欠かせない。

■問われる社会の姿

被災地の小中高校には、国の復興予算でスクールカウンセラーが手厚く配置され、臨床心理士らが子どもへのカウンセリングや先生の相談に応じる。3県の約1500カ所に630人ほどが派遣されている。訪問は週1回程度になるが、教職員とは別の視点から子を見ることで、新たな気づきが得られる。

政府は震災10年の節目となる来年以降も、子どもたちの心のケアを続けると決めている。息の長い支援を望みたい。

支援を必要としているのは、もちろん子どもだけではない。災害公営住宅での孤独死は13年以降で200件を超える。

被災者の心のケアの必要性が広く認識されるようになったのは、95年の阪神・淡路大震災がきっかけだった。その最前線に立った精神科医の故安克昌(あんかつまさ)氏はこう書き残している。

「心の傷を癒やすということは精神医学や心理学に任せてすむことではない。社会のあり方として、今を生きる私たち全員に問われていることである」

相次ぐ自然災害、そして現下のコロナ禍と、様々なストレスにさらされながら人は生きている。子どもからお年寄りまで、その影響のあらわれ方も、程度も、一人ひとり全て違う。

そこにどんな手を差し伸べたらいいか。被災地の経験をいかし、その成果をまた被災地に還元することによって、優しく、しなやかな社会をつくりたい。
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2020年03月29日

[朝日新聞] あいち芸術祭 「手打ち」で幕は引けぬ (2020年03月29日)

不透明感が強く残る決着だ。

あいちトリエンナーレ2019の企画展「表現の不自由展・その後」が、いったん中止に追い込まれた問題で、文化庁が、全額不交付とした補助金約7800万円を、一部減らしたうえで支給することを決めた。

裁判も辞さない構えを見せていた主催側の愛知県が、手続きの不備を認めて減額を申し出、文化庁が応じた格好だ。

紛争の収束を歓迎する声もあるが、文化を保護・育成すべき文化庁が使命を忘れ、それに真っ向から反する行動をとった事実は、厳然として残る。

「不自由展」は昨年8月に開幕したが、慰安婦に着想を得た少女像などの作品に抗議が殺到した。菅官房長官や当時の柴山昌彦文部科学相が助成の見直しを示唆し、文化庁が9月下旬、安全に運営できるか懸念があることを事前に報告しなかったとして、不交付を決めた。

しかしそのような報告義務は明示されていなかった。専門家による審査を経て決まった助成を、事務方だけで覆したうえに、検討の過程をたどれる議事録は残されていないという。

どこをとっても異常な決定だ。政府が展示内容そのものを問題にして、不当な介入をしたと判断せざるを得ない。

もし裁判になれば、そうした背景が明らかになって、国が敗訴するリスクもあった。これを避けたい意図と、国と争い続けることのデメリットを懸念した大村秀章愛知県知事の思いが一致し、あいまいな「手打ち」となったのではないか。

だが当事者間の合意に任せて済ませられる話ではない。

表現活動にひとたび「反日」などのレッテルが貼られると、激しい攻撃の刃が向けられる。そうした動きを本来制さなければならない政治家が、逆にあおる側にまわり、文化庁までもが加担する――。そんな現実を目の当たりにすれば、作品をつくる者だけでなく、発表の場を提供する側も萎縮し、民主主義の土台である表現の自由を窒息させてしまう。

「不自由展」後も、美術展や映画祭への公的機関の介入が続いた。広島県は、芸術祭の展示内容を外部委員会に事前に確認させることを決めた。やり方次第では憲法が禁じる検閲につながりかねない、危うい行いだ。

安倍政権の下で不祥事や疑惑が相次ぎ、追及に力を割かれた結果、不交付の問題は国会でしっかり議論されていない。繰り返し指摘してきたように、政策を進める根底には、政治や行政に対する信頼が不可欠だ。

経緯も、責任の所在もはっきりさせないまま幕引きとすることは、到底許されない。
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2020年03月28日

[朝日新聞] 高松塚壁画 教訓忘れず宝を未来へ (2020年03月28日)

「戦後最大の考古学的発見」と称される貴重な遺産をめぐり、13年にもわたる解体と修理を迫られた。保存への取り組みを当初は文化庁と一部の関係者だけが担い、情報公開に後ろ向きだったことが「人災」を招いた苦い教訓を忘れず、歴史の宝を未来へと継承していきたい。

奈良県明日香村にある特別史跡、高松塚古墳(7世紀末?8世紀初め)の壁画の修理が終わった。カビの発生で絵が薄れ、石室を解体して墳丘から壁画を取り出すという異例の手法を採って、村内の修理施設で07年から作業が続いていた。

女子群像など極彩色の壁画は1972年、村が主体となった発掘調査で見つかった。古代の先人が眼前によみがえったかのような色鮮やかさに人々は魅了され、考古学ブームを巻き起こした。

発見後間もなく、文化庁が管理を担当。壁画は74年、国宝に指定された。同庁は現地での現状保存を原則にすると決め、温度や湿度を調節するため石室と連結させた施設を設け、作業に乗り出した。

しかし、カビ対策の不足や度重なる人の出入り、監視体制の不備が逆に壁画の損傷を広げた。作業は文化庁と限られた関係者で進められ、作業員が不注意から壁画を傷つけたことも公表されなかった。その間、発掘に携わった地元の人々らは蚊帳の外に置かれ続けた。

大幅な劣化が発覚したのは04年。文化庁の監修で刊行された壁画写真集が裏付けとなった。長官が「大きな損傷あるいは退色もなく保存」と自賛したことが、当時の文化行政の唯我独尊ぶりを物語る。激しい批判がわき起こったのも当然だろう。

壁画は修理中、定期的に地元住民らに公開され、研究者にも見学の機会が設けられた。文化庁は今後、修理施設での保存管理と定期的な公開を続ける方針で、並行して新たな保存・公開施設の建設を目指す。地元の人々や多様な専門家らと共同で進めなければならない。

高松塚から遅れること10年余り、同じ明日香村で発見されたキトラ古墳壁画のケースが先例になる。キトラでは高松塚での反省を踏まえ、壁画を石室からはぎとって保存処理。4年前には古墳そばに施設を新設し、保存・公開している。ともに飛鳥時代の壁画であり、いにしえからの中国大陸や朝鮮半島との交流を今に伝える遺産だけに、展示内容などで連携が不可欠だ。

1300年もの間、保たれていたのに、国が管理し始めてからの30年余で大きく傷つけてしまった。高松塚でのこの失敗を肝に銘じ、歴史遺産の保存と公開について模索を続けたい。
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[朝日新聞] 「森友」再調査 政府の信任にかかわる (2020年03月28日)

歳出総額が100兆円を超す新年度予算が成立した。これを受け政府は、新型コロナウイルスの感染拡大に対応する緊急経済対策の策定と新年度補正予算案の編成を本格化させる。

改正新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく「緊急事態宣言」について、安倍首相はきのうの参院予算委員会の締めくくりの質疑で、「現時点において、宣言を行う状況には至っていない」との認識を示した。

ただ、東京都内の感染者が増え続け、首都圏の知事が共同で今週末の外出・移動の自粛を求めるメッセージを発するなど、今後の推移は予断を許さない。政府が厳しい判断を迫られる局面も十分予想される。

首相が緊急事態を宣言すれば、各知事の権限で、外出の自粛やイベントの開催制限、学校や老人福祉施設の使用停止などを求めることができる。市民の自由や権利を制限し、生活の不便を強いるだけに、政府に対する国民の信任がなければ、幅広い理解と納得は得られまい。

その意味で見過ごせないのが、森友問題に対する再調査をかたくなに拒み続ける首相や麻生財務相の姿勢だ。

財務省の公文書改ざんに加担させられ、自ら命を絶った近畿財務局の赤木俊夫さんの手記が公表されて1週間。すべてが当時の佐川宣寿(のぶひさ)理財局長の「指示」だったとして、関係者の実名を挙げて、一連の経緯が事細かに記録されていた。

佐川氏が後に国税庁長官に就任するなど、改ざんを命じた側の幹部が軒並み「出世」するなか、赤木氏は自責の念に苦しみ、死を選んだ。最期に残したメモには「最後は下部がしっぽを切られる」とあった。

首相と麻生氏はこの間の国会で、2年前に財務省がまとめた内部調査と手記の内容に「大きな乖離(かいり)」はないとして、再調査に応じない考えを繰り返し答弁した。「真実を知りたい」という遺族の切実な訴えに向き合おうという誠意は感じられない。

国会でのやりとりを受け、赤木さんの妻は「2人は調査される側で、再調査しないと発言する立場ではない」とコメントした。もっともな指摘だ。真相に迫るには、独立した第三者による調査が不可欠である。

改ざんされた公文書と虚偽の答弁で、行政監視機能をないがしろにされた国会こそが、その任に当たるべきではないか。「政府事故調」とは別に、福島第一原発の事故を検証した「国会事故調」の例もある。

この問題の核心でありながら、財務省が調査もしなかった国有地の大幅値引きの経緯を含め、ここは与野党が一致して全容解明に乗り出す時だ。
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2020年03月27日

[朝日新聞] 中学の教科書 消化不良避ける工夫を (2020年03月27日)

文部科学省の検定に合格し、来春から中学で使われる新しい教科書は、親世代のものとは大きく様変わりしている。

目を引くのは、教科書につきまとう味気なさを克服する工夫だ。例えば数学で統計の基礎を学ぶのに、花見の季節のコンビニの売り上げ動向から入る。1次関数の学習では桜の開花と平均気温の関係を紹介する。関係する仕事をしている人のインタビューも豊富に載っている。

日常生活や実社会とのつながりを示すことで、生徒に「何のために学ぶのか」をわかりやすく伝えようとしている。

一方で、野心的な試みに伴う副作用も否定できない。どの教科も、討論や発表、自分の考えを文章で表現する活動例などがふんだんに盛り込まれた結果、ページ数は現行本より平均で約8%、9年前の前々回検定と比べると20%も増えた。

深い学びをめざす方向性に異論はない。ただ、子どもにじっくり考えさせるには、一つひとつのテーマに相応の時間をかけなくてはならない。授業の枠内でこなし切れるか、消化不良を起こさないか、心配になる。

準備の時間を含めて教員の負担も増す。文科省は「メリハリをつけた教え方を工夫してほしい」と言うが、授業と関係のない校務を削ったり、教師を支える人手を増やしたりして、現場が余裕をもてる環境をつくり出さなければならない。

中身が高度になった教科の筆頭は英語だ。小学校から英語の授業が始まるため、中学卒業までに扱う単語数は今の倍ほどになる。教える順序も、文法の説明は後回しにして「聞く」から入る設計になっている。実用重視の考えはここでも鮮明だ。

だが近年の英語の大学入試改革をめぐる論議では、専門家から「話せるようになるためにも文法の土台が大切」との指摘が相次いだ。一方に偏らない教え方の工夫が求められる。

「技術・家庭」の技術分野も変容が著しい。全教科の中で最もページ数が増えたが、それはプログラミングの記述が拡充されたためだ。内容も歯応えのあるものになっている。

英語と技術の充実は、国際競争と情報通信技術を重視する国の政策のあらわれだ。安倍政権の意向で、道徳についても、検定教科書の使用を義務づけ、教員が評価する「教科化」が先行して始まっている。

時代の要請には耳を傾けねばならないが、だからといって「改革」の名の下、子どもに教える内容を野放図に膨らませることはできない。誰もがついていける無理のないものになっているか。その視点からカリキュラム全体を見直す必要がある。
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[朝日新聞] 感染者急増 医療崩壊を防ぐために (2020年03月27日)

新型コロナウイルスの感染の広がりを受けて、東京都の小池百合子知事が週末の外出自粛などを要請した。近隣の各県も歩調をあわせることになった。

移動の自由は大切な人権の一つだが、ここは一人ひとりが要請の趣旨を理解し、流行の規模を少しでも抑える行動をとるようにしたい。一部で食料品などの買い占め行為が見られる。社会不安を引き起こし、人混みは感染リスクを高める。冷静さが求められる大事な局面だ。

政府はきのう、改正新型インフルエンザ等対策特措法に基づく対策本部を設置した。状況を適切に分析・予測し、市民に十分な情報を発信しながら、政策を進めていかねばならない。

中でも力を入れるべきは、医療態勢の整備・充実だ。

感染症の指定医療機関のベッドが満杯に近づいている地域もある。患者に必要十分な医療を提供するには、一般病院や診療所の協力が欠かせない。

ところが二の足を踏むところが少なくないと聞く。院内感染が起きた場合に受けるダメージや、風評被害への懸念が大きな理由だという。患者の受け入れが経営上もメリットとなり、万が一、何らかの損害が出ても、確実に補償するような仕組みを検討すべきではないか。

感染防護に必要なマスクやガウン、手袋などを、優先的に配備するのは当然だ。重症者の治療に使う人工呼吸器などについても、操作要員の確保を含めてしっかり手当てしてほしい。

患者の重症度に応じて入院先を振り分けるシステムの構築も必須だ。入院可能な病床数を把握して、連絡・調整にあたる大阪府の「入院フォローアップセンター」のような試みを全国に広げたい。患者の搬送や受け入れについて、県境を越えた協力も視野に入れるべきだ。

厚生労働省は、感染者が増えた場合、軽症者は自宅で安静にして療養する方針を打ち出している。保健所と病院のどちらが責任をもって経過観察をするのか。食事などの生活支援をどうするか。重症化したとき、どこに、どう収容するか。課題を洗い出し、あらかじめ対応策を決めておくことが必要だ。

家族に重症化リスクの高いお年寄りがいるなどの理由で、自宅療養が難しい人もいる。軽症者が滞在できる施設の確保が求められる。展開によっては仮設病棟の建設も浮上するだろう。

いずれも、国、自治体、関係団体の密接な連携があって初めてできることだ。

経路の不明な感染者が増え、爆発的な患者増加が起きてもおかしくない状況に、いま日本はある。その認識と危機感を共有して、難局に立ち向かいたい。
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2020年03月26日

[朝日新聞] 五輪1年延期 コロナ収束が大前提だ (2020年03月26日)

東京五輪・パラリンピックの開催が、「1年程度」延期されることになった。新型コロナウイルスの感染拡大を受け、国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長と安倍首相が合意し、IOCの臨時理事会も満場一致で承認したという。

「延期を含めて検討」「4週間をめどに結論」との方針が打ち出されてからわずか2日。まさに電光石火の決定だ。年内開催、2年延期などの案も取りざたされたが、なぜ1年延期を適当と判断したのか、それぞれのメリット・デメリットをどう勘案したのか、詳しい説明がないままの表明となった。

新たな開催時期を固めないことには、延期に伴う様々な課題の解決策も見いだせない。不安を募らせる各国の選手たちを落ち着かせたい。そんな事情もあったのだろうが、「中止」だけは何としても避けたいIOCと日本政府の思惑が、早期決着で一致したと見るべきだ。「21年夏」で動き出せば再延期は考えられない。両者は大きなリスクを背負ったことになる。

待ち受けるのは、これまで6年かけて準備してきたもろもろを、たった1年でつくり直すという厳しく困難な作業だ。他の国際大会との日程調整に始まり、競技会場や運営ボランティア、宿泊先、輸送手段などの再確保、警備計画の見直しなど、挙げていけばきりがない。

最大の課題がコロナ禍の収束であるのは言うまでもない。首相がいう「最高のコンディション」「安全で安心な大会」を実現する大前提である。日本はもちろん、全世界でこの問題が解消していなければ開催はおぼつかない。国内対策の推進とあわせ、開催国としてどのような貢献ができるか、しなければならないか、政府は検討し、実践していく必要がある。

財政問題も重要だ。ただでさえ総経費が当初言われていたものより大きく膨らんでいるなか、延期によってどれだけの額が上乗せされるのか。それを誰が、どうやって負担するのか。都民・国民の財布を直撃する話だ。見通しをできるだけ早く示すことが求められる。

この国では、目標の達成を優先するあまり、正当な疑問や異論も抑えつけ、強引に突き進む光景をしばしば目にする。そのやり方はもはや通用しない。情報の開示―丁寧な説明―納得・合意の過程が不可欠だ。

一連の経緯を通じて、テレビ局やスポンサーの巨大資金に依存し、肥大化を続けて身動きがとれなくなっている五輪の姿が浮かび上がった。仕切り直し開催に向けた準備とは別に、五輪のあり方を根本から考え直す機会としなければならない。
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[朝日新聞] NHK経営委 現体制では原則守れぬ (2020年03月26日)

今の経営委員会の体制で運営を続けることは不適切である。少なくとも委員会幹部が明確に責任をとらない限り、放送の自主自律という原則について疑問符がぬぐえないだろう。

かんぽ生保による不正販売の報道をめぐり、NHKの経営委が当時の会長を厳重注意するまでの経緯がわかってきた。2018年秋に開かれた会合の資料を、経営委が公表した。

日本郵政グループから申し入れを受けた経営委は、当時の上田良一会長を出席させ、その場で番組を批判していた。「作り方に問題があるのでは」「一方的になりすぎた気がする」などの発言があったという。

放送法は、番組作りについて「何人からも干渉され、又(また)は規律されることがない」と定め、経営委員が個別の番組編集について、その規定に抵触することを禁じている。

国会の同意を得て首相が任命する経営委員と、実際に番組を作る執行部との間に厳格な一線を引くことに重い意味があり、NHKという公共の報道機関の根幹を成すルールである。

しかし会合での発言内容について、当時、委員長代行だった森下俊三・現委員長は、あくまで「意見・感想」にすぎず、番組への干渉には当たらない、と主張している。

それがNHKの最高意思決定機関としての認識であることに慄然(りつぜん)とする。報道に不満をもつ取材対象から申し入れを受け、番組作りに苦言を呈した行為をどう正当化できるのか。

しかも朝日新聞の取材によると、森下氏自身が会合で、番組の取材を「極めて稚拙」と評するなど、批判的な議論をリードしたとされる。放送法に基づく基本原則を理解できていない委員長が、このまま職責を適正に果たせるとは考えにくい。

問題が発覚してから半年あまり、経営委の説明は変転してきた。「透明性の観点から考えれば、議事録で公表すべきだったと反省している」というが、いまだに発言者名などの詳細は明らかにしていない。

今後については、番組についての発言が疑念を招かないようにするとしつつも、「状況によっては意見を述べ合うこともある」と含みも残した。経営委は今なお問題の核心に向き合っているとは言いがたい。

NHKは4月からネット同時配信を本格的に始めるが、変わらぬ使命は、報道機関としてあらゆる権力を監視し、視聴者の知る権利を保障することだ。

外部からの一切の圧力に抗し、自主自律の原則を守る決意がなければ、NHKは存立の基盤を失う。経営委は見失った重責を改めて考え直すときだ。
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2020年03月25日

[朝日新聞] 学校再開へ 学びの確保を柔軟に (2020年03月25日)

新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐための全国一斉の休校措置が、新学期から解除されることになり、文部科学省が再開に向けた指針を公表した。

近距離で話をする時のマスク着用や換気の徹底などを指示するとともに、再開後、子どもや教職員に感染者が出た場合は、学級や学校単位で休業することを認める内容となっている。

安倍首相の要請で唐突に始まった一斉休校には多くの疑問があった。感染状況や通学範囲の広さ、往来の激しさなどは、地域によって異なる。自治体が学校ごとに危険度を見極め、柔軟に判断する方が理にかなう。

休校をめぐっては他にも、小さな子がいる保護者が働きに出られない▽代わりになる学童保育の施設の方が感染リスクが高い恐れがある▽栄養は給食が頼りという子もいて、健康が損なわれる▽給食業者や非常勤職員の働く場が失われる――などの指摘が出ていた。万全とはいえないが、指針はそうした課題の克服にも目配りしている。

授業が来月始まっても、本人や家族に基礎疾患があるなどの理由で、登校に不安を持つ家庭もあるだろう。各校は個々の状況把握に努め、そうした場合には出席を強いることのないように留意してもらいたい。

言うまでもないが、学校再開は警戒を緩めていいという合図ではない。政府の専門家会議は都市部などでの大規模流行に警鐘を鳴らしている。校内にはいなくても、周辺地域で感染者が急増した場合はただちに休校に切り替えるなど、臨機応変の対応が求められる。

また、開校か閉鎖かの二者択一ではなく、他に取りうる手段も用意しておきたい。学年や学級別に授業日を設ける分散登校など、密集を避けつつ授業を進める工夫があっていい。休校にする場合も、学校施設を開放して自宅で一人になる子たちの居場所をつくることはできる。

気になるのは休校に伴う学習の遅れだ。9年前の3月に起きた東日本大震災では、被災した学校の多くは4月中下旬まで、遅いところでは5月下旬まで始業がずれ込んだ。その後、夏冬の休みを短くしたり、土曜授業を行ったりして取り戻したという。当時の知見も生かし、児童生徒や教員の負担が過大にならない方法を探ってほしい。

ネットを使った授業動画や、デジタル教材による自習の試みも広がっている。ただ、自宅に機器があるかどうかや自学自習ができる環境か否かは家庭による差が大きく、教育格差を広げかねない面もある。対面学習の重要性に変わりはない。NPOなどと連携し、学習支援事業の強化もあわせて進めたい。
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