2017年03月11日

[産経新聞] 【主張】東日本大震災6年 今ある痛みを共にしたい 実情に合った支援が必要だ (2017年03月11日)

6年がたった。

何年たとうが、鎮魂の念を持ち続けたい。

犠牲になるいわれの何もなかった人々である。その遺志を継ぎ、東日本大震災で被害を受けた東北に尽くすことは、私たちの責務にほかならない。

同時に、時間の経過とともに復興の進み方に差が生じていることに、注意を払いたい。

新しい家に入った人がいる。一方で、岩手、宮城、福島の3県では2月末現在、それぞれ1万人以上の人がなお、応急仮設住宅での暮らしを余儀なくされている。

広い被災地の各地で、異なる現実がある。実情に合わせた支援が必要なのは、いうまでもない。

見えにくくなる心の傷

物的な復興ばかりではない。

ある現実を報告したい。

2月末、平日の午前中。福島県内の仮設住宅から、50代の男性がふらつきながら出てきた。

朝から飲酒していた。被災者を支援する集いに連れて行こうと、「相馬広域こころのケアセンターなごみ」の職員が肩を支えた。

午後、改めて訪ねた。布団は敷いたままで汚れ、床に菓子パンが無造作に置いてあった。男性は、東京電力福島第1原発事故で避難指示が出た飯舘村から家族で仮設に入った。父親は震災の約1年後に病死したという。

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酒が続くようになった。

飯舘村の避難指示は、今月末で一部を除き解除される。しかし男性は村に帰るかどうか、揺れている。今の暮らしは気楽で、離れたくないという思いがある。

一方でつぶやいた。「もう一回やり直さないと。父ちゃんとやってた農業やりたい」。前を向く気持ちを、なくしてはいない。

被災者の心の傷は、年月とともに見えにくくなった。しかし震災が人々になお精神的な影響を与えていることに、敏感でいたい。

福島県では毎年、原発事故の避難住民を対象に心の健康の調査が行われている。平成27年度に電話支援した一般人約2600人中、100人以上が、震災を思い出して恐怖を覚えるなど心的外傷(トラウマ)反応を見せた。

福島県だけではない。宮城県の27年度健康調査でも、プレハブ仮設に住む18歳以上の7・5%が、強い心理的苦痛を感じている。

東北3県では震災に関連する自殺も多い。今年1月末までで福島88人、宮城49人、岩手42人。

他方、全国の自治体から派遣される職員やボランティアは減っている。各地では、「震災いじめ」が表面化している。寂しい現実である。

自立した、あるいは自立に向かう被災者も多いだろう。しかし、今も困難を抱える人が置き去りにされてよいはずがない。

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それぞれにできること

「なごみ」は、被災者のもとに出向いて支援を続けている。訪問相談は年1000件を超える。

「人生どうでもいい」「働く気になれない」「寂しい」。そんな声が被災者から聞かれる。「死にたい」という声もある。アルコール依存も深刻な状態が続く。

「回復できる人とできない人の二極化が進んでいる」と、「なごみ」の米倉一磨センター長は指摘する。物的な復興と同様に、精神面の復興でも差が広がっているのが、被災地の現状である。

「福島はどうせ忘れられる」という声もある。孤立感を深め、心身の健康を損ねかねない人がいることを、忘れてはならない。

被災者の心のケアは、平成7年の阪神大震災で定着した。災害があると専門家や自治体が即応し、支援体制が組まれてきた。

しかし制度や専門家が必要であっても、それだけが人の心を癒やすのではない。

阪神大震災でケアの方法の原型を築いた精神科医がいた。奔走する一方で、医師は、ケアとは方法だけの問題ではないと訴えた。

今ある痛みに共感することを、医師は出発点に置いた。

「“心の傷を癒すということ”は、精神医学や心理学に任せてすむことではない。それは社会のあり方として、今を生きる私たち全員に問われている」(安克昌(あん・かつまさ)『心の傷を癒すということ』)

被災者を孤立感から救うのも、社会から見守られているという意識にほかなるまい。

関心を持ち続けよう。

私たちそれぞれが東北にできる支援を、考え続けよう。
posted by (-@∀@) at 13:21| Comment(0) | TrackBack(0) | 産経新聞 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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