2009年01月13日

[読売新聞] 脳の科学 まだ分からないことは多い(1月13日付・読売社説) (2009年1月13日)

分かったようで、分からない。脳科学の現状を要約すると、そう表現できるだろう。

それとは裏腹に、社会の期待は先走りしているのではないか、という懸念が随所ににじむ報告書を、文部科学省の脳科学委員会がまとめた。

脳は人の「心」の基盤だ。これまでの研究で、個々の神経細胞の性質や脳の特定部分の役割は、かなり解明されてきた。しかし、それだけで、全体の機能が分かるほど単純なものではない。

その限界が無視されていると報告書は嘆く。「神経神話」と言われるような科学的根拠に乏しい取り上げ方も多い。「右脳人間、左脳人間」のように、人間を単純に類型化する例もあると言う。

独り歩きし始めた神話の払拭(ふっしょく)は容易でない。だが、これを防ぐには研究者が正確に分かりやすく情報発信してゆくしかない。

報告書は、もともと、どう脳研究を進めるか、基本構想を取りまとめたものだ。文科相の諮問を受けて議論してきた。今後の答申のたたき台となる。

その中で、あえて神話化を取り上げたのは、生命科学のフロンティアとなる脳科学が信頼を損なうことを恐れたためという。

高齢化に伴って、認知症などの神経疾患は急増している。国内の認知症患者は170万人にも達する。こうした脳の病気の原因解明や予防、治療法の開発は、ますます重要になっている。

福祉分野では、神経細胞の活動を読み取ってパソコンなどの機器を操作する技術も登場し、実用的な機器の開発につながるかもしれないとの期待が高まっている。

さらに、人間の脳の機能を参考にすれば、人型ロボットの開発に貢献できる可能性がある。

人間の「心」についても、神経回路網の機能探究を基礎に、解明が進むだろう。その際、生物学者だけでなく、人文・社会学など幅広い分野の研究者の協力も必要になる。学際研究を円滑に進めるうえでも、脳科学の現状と目標は明確にしておく必要がある。

報告書は5〜10年後の成果として、記憶と学習の仕組み解明、脳の老化制御、ストレス克服法の開発といった目標を掲げている。

ただ、それを目指す日本の脳科学研究の現状には課題も多い。年間約300億円の予算を投じているが、欧米に比べて少ない。大学にも、脳科学の専攻がない。

世界の研究競争は激しい。まずは、研究基盤をしっかりと築く方策を詰めねばならない。
posted by (-@∀@) at 04:20| Comment(0) | TrackBack(0) | 読売新聞 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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