「生きてこの日を迎えることができてうれしい」。所属する国際NGO「世界の医療団」本部のあるパリで記者会見した赤羽さんはこう語った。
元気な表情に家族や友人はほっと胸をなでおろしていることだろう。その喜びを分かち合いたい。
途上国の医療協力にたずさわることが小さい頃からの夢だった赤羽さんは昨年4月、現地に入った。
武装集団に誘拐され、隣国ソマリアに連行された赤羽さんは当初、犯人の銃の触る音がするたびに「もう終わりかと思った」という。
そんな恐怖の日々に耐えられたのは、家族への強い思いからだった。同僚のオランダ人看護師との日々の会話や読書も心の支えになったようだ。
ソマリアは破綻(は・たん)国家の状態にある。治安悪化によって最近は、外国人を狙った身代金目的の誘拐事件が続発している。ソマリア沖に出没する海賊も国際社会を悩ませている。
そうした状況を「世界の医療団」はどこまでつかんでいたのだろうか。
「世界の医療団」は80年に創設された。年間100億円余りの資金を使って約50カ国で活動している。いわば人道支援のプロ集団といえる。
赤羽さんたちは現地で毎朝一番に情報を集め、安全を確かめていた。そこまでやっても国境を越えて忍び寄る武装集団の動きを察知できなかった。これが紛争地の現実である。
犯人グループとの交渉は「世界の医療団」自身が担った。要請を受けて日本政府も事態の推移を見守った。
ソマリアに頼れる政府はない。かといって日本政府の関与を求めても、かえって交渉が複雑になってしまう。そんな判断が結果的に功を奏した。
忘れてならないのは、同種の事件が日本のNGOに起きたら、そんな交渉能力を到底望めないことだ。やはりそこは日本政府が自国民保護の責務を果たさねばならないだろう。
日本のNGOによる人道支援活動は80年代から本格化し、国際社会での日本の評価を高めるために大きな役割を果たした。だがその活動はいつも危険と隣り合わせだ。
昨年8月にはアフガニスタン東部で活動中の伊藤和也さんが武装グループに誘拐され、直後に殺害された。
しかし彼の属したNGOペシャワール会は彼の遺志を生かそうと、現地での水利や農業事業を続けている。
まずは帰国して休養を取りたいという赤羽さんは「また、このようなところで活動できたら」とも語った。
多くの人々に支えられながら人道支援の志が受け継がれていく。後に続く若者をみんなで応援したい。


