環境省の専門家会合が繁殖技術をはじめ、飼育の継続性、歴史的、社会的なかかわりなどの観点から、候補地三カ所のうち、石川県と島根県出雲市に“お墨付き”を与えた。同省が年内に正式決定する。
トキの分散飼育は鳥インフルエンザ対策で、佐渡トキ保護センター(新潟県)一カ所での集中を避けるための措置である。
現在、センターで飼育されているトキはすべて中国産だ。一九九九年、初めて人工繁殖に成功して以来、順調に増え続け、百羽を超えた。しかし、国産は繁殖できず、二〇〇三年に絶滅した。
分散飼育の第一弾として昨年末、多摩動物公園(東京)にペア二組が送られ、ひなも誕生した。
石川県が名乗りを上げたのは四年前だ。本州最後の一羽「能里(のり)」が能登に生息していたことや、保護に心血を注ぐ日本中国朱鷺(とき)保護協会名誉会長の村本義雄さん(83)=同県羽咋市=の存在も大きい。
実績づくりとして〇四年から、いしかわ動物園で近縁種の飼育を始め、〇六年にクロトキの人工ふ化に成功した。
今年は難しいとされるホオアカトキの自然繁殖も成し遂げた。飼育員の旺盛な研修意欲と献身的な努力を評価したい。
技術はクリアされたが、専門家会合は「地域住民とのかかわり」も検討材料に挙げる。トキはなぜ絶滅したのか、を広く啓蒙(けいもう)していくことこそが使命だろう。
かつて人間は肉や羽根を得る目的でトキを乱獲し、田を荒らす害鳥として駆除した。ねぐらの山林にブルドーザーが入り自然破壊が進み、農薬が追い打ちをかけた。
「能里」は一九七〇年に捕獲され、繁殖を目指して佐渡に送られたが、翌年に急死した。体内には農薬が残っていたという。
村本さんは言う。「自然環境とともに、トキを迎える人間の心の環境も整えていかなければ」と。まさしく“能里の遺言”だ。
今年九月二十五日、佐渡で十羽が試験放鳥された。トキが日本の空に舞ったのは一斉捕獲された八一年以来、二十七年ぶりだった。
能里がいなくなって三十七年、再びあの美しい翼を広げたトキが群舞する日を待ちたい。


