2020年03月12日

[東京新聞] 3・11から9年 命の山を築いた心 (2020年03月12日)

メロン栽培で知られ、稲作も盛んな静岡県袋井市。遠州灘に面した市域の南半分は、海抜の低い平たんな地形です。

田園とビニールハウスが広がり住宅が点在する一帯に、古びた人工の小山が二カ所残っています。江戸時代の人たちが水害から身を守るために造った「命山」です。


◆江戸時代の知恵残る
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古文書によると、一六八〇(延宝八)年に強い台風による高潮が一帯に押し寄せ、現在の同市周辺で三百人が死亡したといいます。

写真

生きのびた村人たちが、水害を教訓に「中新田命山」=写真(上)=と「大野命山」を築きました。一辺約三十メートル、高さは五メートル前後。「命塚」「助け山」とも呼ばれていたようです。古文書には「その後の高潮では村人全員がこの山に登り、潮が引くのを待った」とも書かれています。

この言い伝えを住民は知っています。一方で子どもたちには格好の遊び場。地元コミュニティーセンター館長松下雅由さんも「小さいころは毎日のように登って遊んだ」と懐かしみます。

住民にとっては地域のよりどころ。「守り神のような存在」と前自治会連合会長の近藤五郎さんは言います。命山には桜の木などが植えられ、住民は定期的に草取りをして手入れしています。二〇〇七年には県文化財(史跡)に指定されました。

古くはたびたび水害にあったこの一帯も、二十世紀以降は命山に避難しなければならないほどの災害は起きていないようです。


◆3・11と「南海トラフ」
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そんな中、命山の重要性を再認識させたのが、二〇一一年三月十一日の東日本大震災でした。

袋井は震度4。津波はありませんでしたが、結構揺れました。当時の自治会連合会長安間登さんはあの午後、テレビの映像を見ながら「大津波が来れば、ここも同じになる」と震えました。東海地震(後の「南海トラフ地震」の一部)の予想震源域に近いこともありとっさに思い浮かんだのは、地元に残る命山のことだったそうです。

「大津波に備えるには江戸時代の命山は小さくて低い。袋井ならではの『平成の命山』を造ろう」。安間さんは早くも翌四月、命山建設の要望書を市長に提出。五月には自治会や企業、学校関係者らで津波対策の住民組織をつくり、行政と一緒に動きだしました。

新しい命山は一七年度までに市の事業で大小四基完成しました。高さ(海抜)十メートル、頂上の避難スペースはそれぞれ三百〜千三百平方メートルあり、合計で二千三百人余を収容できます。総事業費は約十三億円。一部は市民の寄付です。

階段のほか、緩いスロープで登ることもできます=写真(下)、袋井市提供。同市の南海トラフ地震の最大津波高の予測は一〇メートルですが、海岸から一キロ前後の各命山での浸水高は一〜二メートルに減衰される予測です。二階建ての家が流されてきてぶつかっても頂上には影響がないといいます。用地は比較的容易に市が入手できました。市民の防災意識の高さゆえでしょう。

写真

むろん、命山は造っておしまいではありません。予測では、同市の海岸線には地震から十九分で津波が到達します。住民は、それ以前に命山に到着しなければならず、年三回の避難訓練で防災意識を養っています。現自治会連合会長鈴木敬徳さんは「住民の心には『水害には命山』の底流があります」と話します。


◆共助と伝承の力
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名古屋大減災連携研究センター長の福和伸夫教授は「維持管理が

安価に済みます。江戸時代の命山が残っており、長持ちでもあります」と、津波対策として太鼓判を押します。静岡市や浜松市、愛知県田原市など、海岸に沿う他の自治体にも広がりつつあります。

ただ、命山がすべてではありません。平たんな海岸部ならば津波避難タワー、山地が迫っていれば山への避難階段など、地形に合った施設の整備が望まれます。

災害時、一番重要なのは地元の力です。核心は、先人の知恵への敬意と共助の心でしょうか。命山はその象徴のように思います。
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[産経新聞] 【主張】国際機関 中国の専横にストップを (2020年03月12日)

国際規範やルールを守らない国の出身者がルール作りを担う組織のトップに就く?。危惧された事態は避けられた。国際社会の良識が示されたといっていい。

特許や商標など知的財産の保護と利用促進をはかる国連の専門機関、世界知的所有権機関(WIPO、本部ジュネーブ)の次期事務局長選挙が行われ、米国などが推すシンガポール特許庁長官のダレン・タン氏が、中国出身の王彬穎WIPO事務次長を決選投票で破った。

選挙前は、途上国に経済支援や債務減免を持ち掛けて支持を働きかけた中国側の大幅リードが伝えられていた。

これを巻き返したのが米国だ。サイバー攻撃による米企業の秘密情報窃取など、中国による知財侵害で米国は年間2250億ドル(約24兆円)から6千億ドルの損失を強いられており、知財をめぐる問題は米中摩擦の最大の課題だ。

王氏が事務局長に就任すれば知財に関わる情報が中国政府に流れる恐れがあり、米紙は「銀行頭取に強盗を選ぶようなもの」と報じていた。日本も特許庁出身の候補者を2月に取り下げ、米国とともにタン氏を応援した。

国際機関の役割はルールに基づいて各国の利害を調整し、国際社会の利益をはかることだ。トップには高い中立性が求められるが、中国出身者がトップを務める国際機関では自国の利益をむき出しにした言動が目立つ。

15ある国連の専門機関のうち、現在4つで中国出身者がトップを務めている。出身者以外でも、世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長は中国から多額の資金を受けるエチオピアの出身で、就任以降、台湾を締め出し、新型コロナウイルスとの戦いでは、中国寄りの発言を続けている。

一昨年には、国際刑事警察機構(ICPO)の中国出身の総裁が帰国中に失踪した。中国政府はICPOの求める照会の要請に応えず、後に身柄の拘束が明らかになり今年1月、収賄罪で有罪判決を受けた。国内事情が優先され、国際社会の常識は通用しない。

トップ人事を牛耳り、自国の有利を図る一方で、南シナ海の中国の領有権を否定したハーグの仲裁裁判所の判決は無視する。こうした専横を許してはならない。WIPO事務局長選は、今後の格好の先例となるはずだ。
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[産経新聞] 【主張】選抜甲子園中止 自粛圧力の拡大を危ぶむ (2020年03月12日)

新型コロナウイルスの感染拡大で大規模イベントの中止や延期が相次ぐなか、日本高校野球連盟は選抜高校野球大会の中止を決めた。

極めて残念である。過度の自粛ムードは歓迎しない。「独自の判断」を強調してきた高野連には感染の拡大防止に手を尽くして無観客開催を選択し、停滞する社会の雰囲気を変える一助となってほしかった。

政府は全国の小中学校や高校に休校を要請してきた。安倍晋三首相は10日、大規模イベントなどの自粛要請について、19日頃までの継続を求めていた。全国高校体育連盟に加盟する各競技団体は3月に実施予定だった全ての選抜大会の中止を決定していた。

自粛への有形無形の圧力は強まっていた。高野連は「選手の健康の安全が第一という教育者としての苦渋の決断」と説明した。十分に理解できる。

開催を強行すれば「なぜ野球だけが」との強い反発も容易に予想できた。だが高野連には、野球の競技特性も鑑みた「独自の判断」への期待もあった。

厚生労働省は新型コロナウイルス感染拡大の特徴として「換気が悪い」「人が密に集まって過ごす」「不特定多数の人の接触」の3つを挙げている。

屋外の広いグラウンドに9人の守備選手が散り、攻撃側は1人ずつ打席に入る野球の競技形態は、この3条件からほど遠い。移動や合宿への危惧は大会開催への可否とは別に、それぞれの工夫に求めるべきだったろう。

プロ野球やJリーグは、すでに開幕の延期を決定している。プロの興行として、観客抜きの試合はあり得ないとの判断である。

高校野球は観客のためにプレーをするわけではない。純粋な試合への渇望に応える判断は、十分に是認できるはずだった。

感染拡大との戦いは、終わりの予測が立たない。息の長い戦いとなる可能性もある。無条件に全て一律の自粛が続けば、社会生活が成り立たなくなる。最悪なのは、自粛圧力の前に思考停止に陥ることである。

想像していた。アルプススタンドの応援合戦がない静寂の甲子園球場に打球音が響き、球児同士の掛け声がこだまする。球児らは応援の有無にかかわらず、全力でプレーするだろう。野球の原点を見る大会となるのではないかと。
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[毎日新聞] 新型コロナの追加対策 弱い立場により目配りを (2020年03月12日)

新型コロナウイルス感染症の緊急対策第2弾を政府が決めた。安倍晋三首相がイベント自粛や一斉休校を要請して以降、大きな影響を受けている中小企業や子育て世帯などへの支援策が中心だ。

首相が唐突に要請したのは2週間前だ。今回の対策は本来、要請と同時に打ち出されるべきものだった。

緊急対策では、経営基盤が弱い中小企業や雇用・収入が不安定な人に目配りできるかがポイントだった。

イベント自粛や観光客の激減などで、関係業界の中小企業は苦しい状況にある。実質的な無利子・無担保の特別貸付制度の創設は、当面の資金繰りに必要だ。

しかし、国内の感染拡大が収束しなければ業績の回復は見込めない。このため、無利子でも借り入れをためらう企業もあるだろう。ライブハウスなど感染リスクが高いと指摘され、営業が難しい業種もある。影響が長引く場合には、補償的な措置も検討すべきではないか。

非正規労働者やフリーランスなど個人で仕事を請け負う人はしわ寄せを受けやすい。「契約時間が短くなった」「仕事がキャンセルされたが経費は請求できるのか」などの声が上がっている。

非正規であれば、雇用が打ち切られる不安もある。緊急対策では、小口の生活資金の貸し付けなどが用意されたが心もとない。フリーランスの人も、大きな不利益を受けないようにすべきだ。

臨時休校で子どもの面倒をみるために仕事を休む保護者に対する支援策は設けられた。ただし、非正規雇用が多いひとり親家庭などでは、仕事が減るのではという不安が残る。加えて3月は、進学、入学などで出費がかさむ時期だ。

給食がなくなり、貧困家庭を支えてきた子ども食堂でも自粛は広がっている。子どもの勉強をみる時間の余裕も少ない。身近な自治体がきめ細かく支援することも求められる。

今後も追加の財政支出は必要になるだろう。対策が後手に回らないようにしなければならない。

首相は「私の責任で万全の対応を取る」というが、投じられるのは国民が納めた税金だ。国の施策全般を見直し、優先度の低い予算を後回しにするような工夫も必要になる。
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[毎日新聞] 政府の震災復興対応 9年を検証し支援息長く (2020年03月12日)

政府の東日本大震災からの復興政策が転換点を迎えようとしている。

これまで「復興期間」と位置付けていた10年間は来年度で終わる。そのため、再来年度以降は復興庁の設置期間を10年間延長したうえで、新たな復興の基本方針を定めた。

事業規模は縮小し、インフラ整備を支えてきた復興交付金は廃止となる。税制優遇や規制緩和は継続するものの、対象地域が絞られる。

政府は来年を最後に、毎年3月11日に開いてきた追悼式も打ち切る方針だ。「10年」を節目として、復興が完了したかのように受け取られないかと心配する。

たしかに、宅地造成などのハード事業はほぼ完了した。だが、福島を中心に約4万8000人に上る避難者をはじめ、支援を必要としている住民は今なお多い。

政府は現在、これまでの復興の教訓や、NPO、ボランティアなどが培ったノウハウを集積する事業に取り組んでいる。来年度末までに報告書をまとめ、公表することを検討している。

こうした復興の検証を、まずは被災者が抱える現在の問題の解決につなげることが求められる。検証によって施策が不十分と分かれば、新たな手立てを講じなければならない。

たとえば、災害公営住宅(復興住宅)の整備に伴い、各地で増えている「孤独死」の問題がある。

自治会が入居者の情報を把握することが見守り活動には不可欠である。しかし、プライバシーが壁となっている。

岩手県は、入居者の情報を自治会の要望があれば提供することにした。県営の復興住宅に入居する全世帯を対象に、氏名や生年月日、緊急時の支援希望といった情報を自治会に提供していいか、前もって書面で尋ねたという。

政府が復興の基本方針で示した施策の多くは、これまでの継続だ。だが、被災者を取り巻く環境は変化しており、必要に応じて施策を見直さなければならない。

近い将来、南海トラフ地震や首都直下地震の発生も懸念されている。こうした大災害対策にも、検証を生かせるだろう。

過去と今の復興の検証を進め、息の長い支援につなげる必要がある。
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[読売新聞] 違法サイト対策 適切な規制で出版文化を守れ (2020年03月12日)

漫画や書籍のデータをネット上に無断で公開する海賊版サイトは、出版文化を毀損(きそん)するものであり、看過できない。

政府は海賊版サイト対策の一環として、著作権法改正案を今国会に提出した。

これまで音楽と映像に限定されていた違法ダウンロードの規制対象を、漫画や小説、論文など著作物全般に広げる内容だ。

本来、保護されるべき価値は、音楽・映像と書籍などの著作物との間で差がないはずだ。海賊版によって多くの著作物が被害を受けている現状を踏まえれば、法改正の方向性は妥当と言えよう。

著作物のダウンロード規制に対しては、ネット利用の萎(い)縮(しゅく)を招き、知る権利への障害になるのではないかとの懸念が根強い。こうした声を受けて、昨年春に一度、法制化が見送られた経緯がある。

今回の改正案では、海賊版と知っていたとしても、数十ページの漫画のうち数コマをダウンロードする軽微なケースや、スマートフォンなどで画像保存した際の写り込みは、規制の対象外とする。

刑事罰を科すのは、正規版が有償で提供されている著作物の海賊版を反復・継続してダウンロードするような悪質な行為だ。

知る権利を侵害しないよう、過度な規制に一定の歯止めをかけたことがうかがえる。

ネット利用者に対して、法改正の趣旨や、違法と適法の境目を周知し、安易な海賊版使用に警鐘を鳴らすことが欠かせない。作者や出版社が正当に対価を得てこそ創作活動は成り立つ。その点への理解を広げる必要もあるだろう。

改正案は、利用者を海賊版サイトに誘導する「リーチサイト」の運営も著作権の侵害とし、サイト運営者などに刑事罰を科せるようにした。利用者の多くがリーチサイトを経由して閲覧し、ダウンロードしているためだ。

リーチサイトは海外のサーバーを使っていることも少なくない。規制に実効性を持たせるため、捜査当局などには海外機関と連携し、監視を強めてもらいたい。

海賊版サイトは常時、数百以上が存在し、上位10サイトだけで月に延べ6500万人が利用している、との調査結果がある。法規制に加え、多様な手段で封じ込めを図ることが求められる。

海賊版サイトやリーチサイトの収入源となっている広告掲示を停止するよう徹底する。検索結果にこれらのサイトが表示されないようにする。政府と関連業界が協力して対策を講じねばならない。
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[読売新聞] 春闘賃上げ回答 労使協力で苦境乗り越えたい (2020年03月12日)

従業員にとっては総じて厳しい交渉結果になったと言えよう。

自動車や電機など大手企業の春闘で、経営側が労働組合に賃上げ回答を一斉に示した。

賃上げの幅は前年実績を下回るケースが相次いだ。新型コロナウイルスの感染が広がり、世界経済の先行きは不透明感を増した。その影響が大きかったのだろう。

2020年3月期決算は大幅な減益や赤字に陥る企業が増えるとみられる。経営側が人件費の負担増を懸念し、賃上げに慎重になったのはやむを得ない面がある。

象徴的だったのは、トヨタ自動車が、基本給を底上げするベースアップ(ベア)について、7年ぶりに実施を見送ったことだ。

定期昇給を含む賃上げ総額は月額平均8600円の回答で、前年を2100円下回った。自動車業界は競争が激しく、経営環境への強い危機感がうかがえる。

ベアによって一律に近い形で賃上げするのではなく、能力主義に基づく賃金体系に変えたいとの会社の意向もあったのではないか。年功序列に代表される日本型雇用の転機になる可能性がある。

ただ、賃上げを継続する重要性は変わらない。余力のある企業には可能な範囲で賃上げに応じることが求められる。

経営側は、出産・育児をしやすい職場作りや福利厚生の充実などにも取り組み、従業員のやる気向上に努めるべきだ。

一律の賃上げ要求と回答が慣例だった電機業界で、「横並び」が崩れたことは目を引いた。

労組側はそろって月3000円のベアを要求したのに対し、日立製作所は1500円を回答した。一方、三菱電機や富士通は1000円で妥結した。

パナソニックは1000円を回答したが、全てがベアではなく、一部は企業型の確定拠出年金の掛け金に充てるとしている。

同じ業界の中でも、各社の事業内容の違いや収益力の差は大きくなっている。回答にばらつきが出たことに違和感はない。

労組が結束して経営側と対峙(たいじ)する意義はあるが、今後は、組合ごとの戦略と交渉力が一段と問われることになろう。

中小企業の春闘はこれから本格化する。厳しい内容になると予想される。従業員の約7割が中小企業で働いており、その結果が景気に与える影響は小さくない。

雇用を守るために、労使が協力して知恵を絞り、この苦しい状況を乗り越えてもらいたい。
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[朝日新聞] 新型コロナ対策 くらしの不安に応えよ (2020年03月12日)

この2週間、安倍首相が唐突に打ち出したイベントの自粛や一斉休校の要請で、くらしを取りまく環境は激変した。

要請は新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐ目的というが、国民の不安は募る。

政府が決めた緊急策の第2弾では、仕事を休まざるを得なかった人への当面の補償や資金繰り支援の拡充が柱になった。首相は「雇用の維持と事業の継続が最優先」と強調するが、自ら打ち出した方針による影響の大きさも踏まえた、後追いの策の色彩が濃い。

国が支出する4308億円のうち2463億円は、臨時休校にともなう対策にあてる。従業員に仕事を休んだ親がいる企業向けの助成金に加え、この制度の対象とならないフリーランスには、一定の条件のもと1日4100円を支援し、最大20万円の緊急貸し付けもおこなう。中止になった給食の費用負担や農家や業者への支援も、国のお金で面倒をみる。

なお解消しないマスク不足には、布製2千万枚を国が買い上げて介護施設などに配り、転売は罰則つきで禁じる。1・6兆円規模の中小企業などへの資金繰り支援では、実質の無利子融資なども用意した。

だが、休校の余波を受けた人たちへの対応と比べると、そのほかの要因で売り上げを失った事業者などへの支援は、手薄な感が否めない。

日本商工会議所の調査では、中小企業の6割超が売り上げや受注、客数の減少に直面する。さらに打つべき手はないか、政府は目配りを続けるべきだ。

そして忘れてならないのは、なお先を見通せない不安を、国民が抱えていることだ。

首相は政府の会議で、イベントの自粛を今後おおむね10日間程度は続けるよう求めた。しかし、どのような条件がそろえばイベント自粛や休校の要請を解くのかといった、国民が最も知りたいことへの具体的な言及はなかった。

世界で感染が広がり、経済活動が停滞するなか、金融市場では不安定な動きが続く。株価の下落で消費者心理が冷え込み、円高で企業の収益が押し下げられれば、景気がさらに落ち込む悪循環に陥りかねない。

専門家会議からは、流行が長期化する可能性が指摘された。

この先のくらしへの対策も経済全般の見通しについても、政府の情報発信が欠かせない。感染拡大を防ぎながら、経済活動をどう保つのかの考え方を示すことも、求められる。

首相はこれまで打ち出した方針の根拠とあわせ、繰り返し会見を開くなどして、丁寧に説明する必要がある。
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[朝日新聞] 特措法改正 懸念の解消なお遠い (2020年03月12日)

新型インフルエンザ等対策特別措置法の改正案が衆院内閣委員会で可決された。本会議を経て参院に送られ、あす13日に成立する運びとなっている。

法の適用対象に新型コロナウイルスを加えるための見直しだが、今回の事態を受けて浮上した現行法の不備もあわせて正し、遺漏の無いようにしようという正論は、「今は緊急を要する」との声に抑え込まれてしまった。遺憾と言うほかない。

そのひとつが、首相が緊急事態を宣言する際の手続きだ。

宣言がされれば各知事の権限で、▽外出の自粛要請▽イベントの開催制限や緊急物資の輸送の要請・指示▽医薬品、食品、燃料の販売の要請・収用――などができるようになる。

野党は、学識者から意見を聴いたり、事前に国会承認を得たりすることを、宣言の要件にすべきだと主張した。だが与党と折衝の結果、法案は修正せず、「国会へ事前に報告する」「与野党の意見を尊重して施策の実施にあたる」などを付帯決議に盛り込むことで決着した。

市民の権利を制限し、社会全体に閉塞(へいそく)感をもたらす重大な措置だ。政府は決議の趣旨を十分酌んで行動するとともに、発動の基準をあらかじめ国民に示しておく必要がある。

特措法に基づく現行政令は、この基準を「重篤症例の発生頻度が通常のインフルエンザに比べて相当程度高い場合」と定めるだけで、解釈の幅が広い。全国知事会も対象区域をどう設定するかの考え方を含め、より明確にするように求めている。

重症化率や致死性、地域での流行の具合、医療機関の切迫状況など、数値化できるものは極力そうして客観性・透明性を保つことが、社会不安を抑えることにもつながる。そのうえで、様々な分野の識者の意見を踏まえて最終的に判断する。改めて言うまでもないことだ。

このような注文をするのは、一連の政治改革によって行政の権限が強化される一方で、安倍首相を始めとする政権幹部らが「法の支配」への理解を著しく欠く行いを重ねてきたからだ。

新型コロナウイルスへの対応をめぐっても、専門家の意見を聴かず、唐突にイベントの自粛や全国一斉休校を打ち出した。政府自身が直前に定めた基本方針にも書かれていない措置だった。だが首相は詳しく説明することをせず、混乱を現場に丸投げした。その後、減収となる人たちへの手当てなどに乗り出したが、深い不信が残った。

きのうの内閣委で特措法担当相の西村康稔氏は「できる限り丁寧に」「慎重に判断」を繰り返した。これをリップサービスに終わらせてはならない。
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