2020年03月08日

[東京新聞] 週のはじめに考える 米ロの雪解けはまだか (2020年03月08日)

この冬はロシアでも暖冬でした。モスクワで一八八六年に記録した過去最高気温を上回る日もありました。

この異常気象を指して「米国の気象兵器による攻撃のせいだ」と真顔で語るロシアの政治家もいます。「(シベリアの)永久凍土が解け続ければ破局だ。米国はそれが分かっている」と米国への敵意をあおります。

今の冷え冷えとした米ロ関係だから、こんな発言が飛び出すのでしょう。


◆米国独立を間接支援
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冷戦の残像が強いからか、米ロは常に敵対しているような印象を受けますが、戦前は様相が異なります。

米国の独立戦争中の一七八〇年、ロシアのエカテリーナ女帝の提唱でスウェーデンやプロイセンなどが武装中立同盟を結びました。米国の独立を阻止するため英国が中立国船の通商を妨害しようとしたのに対し、自由な航行、交易を求めて足並みをそろえたのでした。これは英国の孤立を招き米国への間接支援になりました。

米国の南北戦争時にはロシアはニューヨークとサンフランシスコに艦隊を派遣し、北部のリンカーン政権を支援しました。ライバルの英国が南部寄りだったことへの対抗措置でした。

一九一七年のロシア革命で誕生した共産党政権のソ連に対し、米国は三三年になってようやく国家承認します。共産主義を警戒したからですが、それでも第二次大戦中は同じ連合国となったソ連に米国は武器を大量供与しました。

現在の関係悪化の直接の引き金になったウクライナ問題をめぐり、米ロで最近興味深い動きがありました。

プーチン・ロシア大統領の側近スルコフ大統領補佐官が退任しました。ウクライナ東部紛争の親ロシア派武装勢力の支援や対米交渉に辣腕(らつわん)をふるった強硬派です。


◆NATO拡大が根底に
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その強硬路線は行き詰まっています。ウクライナ和平で進展がないと、欧米による経済制裁の解除は遠のきます。スルコフ氏の退任は路線転換につながるのではないかと米国では期待も出ています。

一方、米国では元駐インド大使のブラックウィル氏が一月に論文を発表した中で、対ロ関係改善策を提言しました。

米国は制裁を解除し、ロシアのG8(主要八カ国)復帰を認める。対するロシアはウクライナ東部への武力介入や、前回の米大統領選での選挙介入のような米国の政治、文化への介入をやめる−というのが主な内容。注目すべきはロシアのクリミア併合を容認していることです。

ブラックウィル氏は米外交界の重鎮キッシンジャー元国務長官に近い人物。キッシンジャー氏はかねて対ロ関係の打開を模索し、トランプ政権にも一定の影響力を持つといわれます。

ウクライナ和平の実現は遠い道のり。和平プロセスは一進一退を繰り返して膠着(こうちゃく)状態です。事態打開の努力を関係国に期待します。

冷戦後の米一極時代を振り返ると、民主主義の伝道師を自任する米国は国際情勢に積極的に関与をしていきます。旧共産圏では北大西洋条約機構(NATO)の東方拡大を推進し、東欧諸国を取り込んでいきました。

二〇〇〇年代に入ると、旧ソ連圏や中東では「カラー革命」といわれる民主化運動が燃え盛り、体制転換が相次ぎました。

ロシアは旧ソ連圏を自分の勢力圏と見なしています。その縄張りに米国が手を突っ込んできたのがカラー革命だ、とロシアは見なして怒りました。

NATOの東方拡大もロシアには脅威に映ります。ウクライナ、ジョージア(旧グルジア)と、勢力圏からNATO加盟を望む国が現れたのだからなおさらです。

欧米は旧ソ連圏におけるわれわれの特別な地位を尊重しろ、とロシアは主張します。

ウクライナは米ロが影響力を競い合う舞台。ブラックウィル氏は論文で、NATO東方拡大問題でロシアと折り合いをつけるよう主張しています。ロシアとの対立の根底にこの問題があるとみているのでしょう。

それにしても米ロのいがみ合いは国際社会には迷惑なことです。世界の核兵器の九割以上を占める両国の核軍縮は進まないどころか、逆に軍拡へ向かっています。


◆立場の違いを超えて
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ロシアやドイツも参画したイランの核問題協議。合意に達したのはクリミア併合の翌一五年でした。当時のオバマ大統領は「ロシアはウクライナ問題と完全に切り離して核問題に対応してくれた。ロシアの協力なくしては合意はあり得なかった」と語りました。

立場は違えど協力すべきは協力する。米ロはそんな大人の関係を取り戻してほしいものです。
posted by (-@∀@) at 12:41| Comment(0) | 東京新聞 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする