2014年12月31日

[産経新聞] 【主張】北の人権と安保理 指導部の責任徹底追及を (2014年12月31日)

国連安全保障理事会が日本人拉致など北朝鮮の人権侵害を正式な議題とする初会合を開いた。

制裁発動など強い権限を持つ安保理に、国家犯罪と抑圧をやめさせる中心的役割が託された意義は大きい。指導部の責任を徹底追及すべきだ。

拷問や公開処刑など北の残虐行為を訴え、国際社会を動かしたのは今年2月の国連調査委員会の報告書である。

国連総会はこれを基に北の人権侵害を「人道に対する罪」と認め、安保理に対し国際刑事裁判所(ICC)への付託を促す決議を採択した。

調査委の設置から決議採択まで、日本は拉致被害者家族の働きかけを含め積極的に関与した。

安保理での議題化は、拉致問題への地道な取り組みが実を結んだものでもある。日本は現在、安保理に議席を持たないが、米国などの力を借りて安保理を活用し、拉致問題の解決を進めたい。

初会合で、シモノビッチ国連事務次長補(人権担当)は、北による日本人拉致被害者の再調査が誠実に実施されるよう、期待を表明した。

米国連代表は、ソニー映画子会社に対する北のサイバー攻撃に関して「自国だけでは不満なのか」と批判した。国内外で言論を封殺し、表現の自由を認めない北の姿勢を指摘したものだ。

総会決議は北の人道に対する罪について、国家最高レベルで決定された政策遂行のためだと指摘した。問われるべきは最高指導者、金正恩第1書記の責任である。

議題化には11カ国が賛成したが、中国とロシアは「安保理は人権問題討議の場ではない」と反対した。中露の反対は、人権抑圧などの同様の問題を抱えているからだと受け取られよう。

安保理の第一の責務は「国際の平和と安全」を守ることにある。とはいえ、ある国の人権侵害と周辺の平和との関係とは、表裏一体であることが多い。現に、拉致事件は外国で犯罪が行われたものであり、抑圧された脱北者が周辺国に流出している問題もある。

安保理は今後、ICC付託について協議するが、常任理事国の中露両国は付託決議案に拒否権を行使してはならない。

この会合を開催すること自体が北への圧力となる。核・ミサイル開発の阻止を含め、粘り強く対処していく必要がある。
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[東京新聞] 大晦日に考える 不安あり希望もあり (2014年12月31日)

今年も一年が終わります。さまざまに振り返ることのうち、不安を一つ、希望を一つ、挙げてみましょう。それぞれ来年も考えたいことだからです。

その不安とは格差です。

大学教授や経済評論家の中には格差をまるで先進国病のようにいう人もいますが、格差の当事者にはそれどころではありません。

思い出されるのは、長いひげを蓄え、リュックを背負い、困っている人たちの元に駆けつけた経済学者宇沢弘文さんです。

九月、肺炎のため、八十六歳で亡くなられました。


◆思い返す宇沢経済学
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経済学は人間のためにあれ、と唱え続け、バチカンのヨハネ・パウロ二世から知恵を求められたのは有名な話です。

亡くなられる少し前、社説で取り上げたことがあります。

サッカー・ワールドカップで沸き立つ一方、経済格差が問題になったブラジルをとり上げた社説(週のはじめに考える「ブラジルからの警告」6月29日)の中でした。

今の日本が求めるべき思考の一つとは、宇沢経済学なのではないでしょうか。

それは、ごく短く言えばこんなふうです。

資本主義はお金ばかりを考えるが、実際にはお金以外に社会で共有している価値(たとえば水や空気、教育、医療など)も含めて考えなくてはならない。工場が水や空気を汚すのなら汚した分もきちんと支払え、ということです。

お金だけでなく、人間という要素を含めた社会全体を考えよ、ということです。

高度成長時代にそう唱える学者は少数でした。温暖化に対してはいち早く炭素税を唱え、持続可能性という今ではよく聞く文明観をもった人でした。


◆大恐慌はやってきた
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資本主義が時々“暴走”することは歴史の教えるところです。

宇沢さんの敬愛した学者の一人にアメリカの経済学者ソースタイン・ヴェブレンがいます。

彼は東部の金持ちの見せびらかすための消費を分析して「有閑階級の理論」(一八九九年)という本を書きました。有閑階級は誇示的消費をし、企業者は営利欲に支配され、労働階級は細分・等量化された作業により思考習慣を規格化されてしまう。そのゆえに企業はやがて衰退するだろう。

そういう景気循環論を発表したら、本当に大恐慌がやってきて、皆驚いたわけです。

経済学に人間という要素を入れよ、と説くのは、宇沢さんと同じです。格差拡大はやがて社会の衰退を招くというのは、宇沢経済学の繰り返し発していた警告といってもいいでしょう。

アベノミクスはサッチャリズムによく比べられます。雑貨商の働き者の娘、サッチャー首相は当初の人気とは裏腹に、その刻苦勉励の信条が優勝劣敗の市場競争信奉者に転じたと思われた時、人心は離れていったのです。

次に希望を述べましょう。

日本人三人がノーベル物理学賞を受賞しました。青色発光ダイオード(LED)の発明です。

私たちの社説は、いつもは二本のところを一本に大型化して「ものづくりの喜びよ」(10月8日)と題しました。

ものづくり、と掲げたのは授賞理由もいうようにその技術が世界で実用化されているからです。人に役立つものをつくったという三人の喜びはつまり私たちの共有すべき喜びでもあったからです。

ノーベル賞の創設者アルフレド・ノーベルはニトログリセリン工場の爆発で弟を失いました。そこでニトロを扱いやすくしたダイナマイト発明へと向かうのです。賞について「千のアイデアのうち一つでもものになれば満足だ」と述べたそうです。

つまり人の役に立つものをつくろう、ということです。ものづくりです。

青色LEDはその責任を果たしつつあり、まさにノーベルの望むものだったと思います。エジソンの白熱電球にせよ、実は先に英国の物理学者が紙のフィラメントで短時間の発光を成功させていますが、エジソンは数え切れないほどの失敗の末、炭化フィラメントで長時間輝かせたのです。時に三十二歳でした。


◆権威よりも汗と熱意
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青色LEDを生んだ名古屋大学は旧帝大中、最後の創立であり、自由の気風に今も富んでいるといわれます。研究を進展させたのは、四国の企業でした。

権威や中央と無縁のところで世界的な発明は生まれた。成し遂げたのはひたすらの努力と熱意であり、支える人たちもいた。そこに希望の芽は見えませんか。不安の時代でも希望は必ずあるのです。
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[産経新聞] 【主張】法人税減税 次は企業が成果で応えよ (2014年12月31日)

自民、公明両党が平成27年度の与党税制改正大綱をまとめた。成長戦略の柱となる法人税減税は2段階で実施し、実効税率を現行の30%台半ばから20%台に引き下げる方針を明記した。

企業の業績改善を後押しする措置として欠かせないものだ。とくに来年度からの2年は、減税規模が増税分を上回る先行減税となっている。

減税の恩恵を受ける企業には、成果を示すことで、これに応えてもらわねばならない。減税分を内部留保に回してしまえば、目的を達することはできない。

設備投資や雇用の拡大、賃上げに取り組み、経済再生に寄与するという責務を果たしてほしい。

日本の法人税の実効税率は、先進国の中で米国に次いで高い水準にある。大綱では法人税を来年度からの2年間で3%強下げた後、代替財源を確保しながら20%台へ引き下げるとした。

減税は企業の国際競争力を高め、海外からの投資呼び込みにも有効であり、妥当な判断だ。

現在の景気停滞は消費税増税に加え、円安などに伴う物価上昇で実質賃金が目減りしたからだ。

だが、デフレ脱却には、物価の継続的な上昇を避けて通れない。消費への影響を軽減し、1年半延期した消費税再増税を円滑に実施するためにも、物価の伸びを上回る賃上げが肝要となる。

今回の法人税減税は、昨年度に1年前倒しで復興特別法人税を廃止したのに続く、企業向けの支援となる。金融緩和で円安も進んでいる。産業界はこうした事業環境をもっと生かす必要がある。

実効税率の引き下げで税収が減る分は、赤字企業であっても事業規模に応じてかかる外形標準課税の強化などにより、段階的に穴埋めする。中堅企業に対する負担軽減措置も設けるとした。中小企業への適用には、経営の実情に応じた配慮が欠かせない。

生活必需品などの消費税負担を抑える軽減税率は29年度の導入を目指す。早期に制度設計に着手して、再増税と同時に導入して家計負担の軽減を図る必要がある。

父母らの贈与で住宅を取得した場合の贈与税は、非課税枠を拡充する。子育て費用などの贈与をめぐる非課税枠も創設される。世代間の所得移転に効果が見込めるものについては、さらに減税対象の拡大も検討すべきだろう。
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[毎日新聞] 社説:法人減税 国民の理解が不可欠だ (2014年12月31日)

与党の2015年度税制改正大綱がまとまった。焦点の法人税は今の実効税率(東京都は35.64%)を15年度に2.51%引き下げ、16年度に下げ幅を3.29%に拡大する。赤字法人などへの課税を複数年で段階的に強化して穴埋めするが、15、16年度は全体で各年度2000億円程度の実質減税となる。

安倍晋三政権は6月の骨太の方針で、実効税率を来年度から数年間で30%を下回る水準に引き下げる方針を示した。それには5%を上回る引き下げが必要になるが、最初の2年間で目標まで残り2%程度となる。

14年度改正でも復興特別法人税が廃止された。増大する社会保障費に対応するためだとして消費税は4月に8%に増税されたのに、なぜ企業ばかり優遇するのかという疑問が広がっても不思議ではない。増税や食料品などの相次ぐ値上げで影響を受けている消費者に対し、十分に納得のいく説明が不可欠だ。

日本の法人税が欧州やアジア各国に比べて高いのは事実だ。安倍政権は国際競争力の強化と、海外からの投資を呼び込む狙いで、成長戦略の柱として減税に取り組んできた。

ただ、円安や株高の効果で輸出産業を中心に企業業績は好調だ。自動車など過去最高益を上げている企業も少なくない。それにもかかわらず、賃金や設備投資は期待ほど伸びていない。そこに重ねて法人減税を実施しても、企業の内部留保を積み上げるだけとの懸念が拭えない。

減税による税収減の穴埋め策の柱は、事業規模に対して課税する法人事業税(地方税)の外形標準課税の拡大だ。赤字企業への課税も強化される。税負担は薄く広くという公平性に沿ったものだが、結果として利益が大きい企業には有利に働く。

減税で恩恵を受ける企業の経営者は賃上げや投資に積極的に動くことが求められる。また、政府は企業の前向きな行動に対する下支えを今まで以上に行わなければならない。

財政に与える影響も過小評価できない。減税で15年度は約1兆2000億円の税収減が見込まれるが、その8割程度しか穴埋めできず、実質減税が2年間続く。税収に見合った減税にとどめるのが本来の姿ではないか。

来年度税制改正では、08年のリーマン・ショックの後に拡充された中小企業に対する法人税の軽減措置の延長も決まった。消費税の再増税の延期も含め、負担増を回避する政策が相次ぐ。総額3・5兆円という決して少額ではない経済対策も年末に閣議決定された。安倍政権は「経済再生と財政再建の両立」を旗印としているが、歳出と歳入両面で財政再建への目配りがおろそかになっていないか改めて問いたい。

2014年12月31日 02時33分
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[毎日新聞] 社説:アサッテ君 40年分の感謝を込めて (2014年12月31日)

毎朝届いた新聞を開く時、社会面の漫画からまず目を通すという人は多いのではないか。毎日新聞の朝刊漫画「アサッテ君」が本日の掲載をもって幕を下ろすことになった。

約40年6カ月、一般全国紙の連載漫画としては最長となる1万3749回を記録した。長いあいだ本紙の「顔」を務めてくれたアサッテ一家と、作者の東海林(しょうじ)さだおさん(77)に敬意を表したい。

横山隆一さんの「フクちゃん」に代わり、連載が始まった1974年は、田中角栄内閣が金脈問題で退陣し、米国のニクソン大統領がウォーターゲート事件で辞任、巨人の長嶋茂雄選手が現役引退した年だった。

「アサッテ君」は折々のニュースも取り入れながら変わりゆく世相を描き続けた。今から見ると女性蔑視に取れる作品などもあるが、当時の世相や感覚が伝わってくる。

週刊誌や月刊誌の連載をかけもちする東海林さんは、午前9時過ぎに仕事場に入ると、午後6時まで昼食も取らずに創作に没頭する。多忙な仕事を支えてきたのは、ひらめきを作画したアイデア帳だ。作品づくりは「種をまいて、肥料をやり、草むしりをして、育った作物を刈り取る農業のようなもの」と東海林さんは言う。クスッとさせられる作品の陰には入念な準備があった。

「今日よりも明日、明日よりもあさってはもっといいことがあるだろう」??。こんな希望を胸に主人公の春男、妻の秋子、長男の夏男、長女の冬美、おじいちゃんの昼吉、おばあちゃんの夕子、ネコのマイ、イヌのニチが活躍する「アサッテ君」の魅力は何より目線の低さにある。

東海林さんには実はアサッテ君のようなサラリーマンの経験はない。新聞、テレビ、週刊誌の情報や飲み屋で仕入れた耳学問が頼りだ。それでも「自分では描けないことを描いている」と、サラリーマンの読者に言われるほど現実味があった。

仕事場には、事典や図鑑、料理や歴史の本が雑然と並び、博識ぶりがうかがえる。だが作中に難しい言葉が出てくることはなかった。

サラリーマンのように毎朝職場に出勤し、夜には行きつけの店で一杯やる。身近な出来事も国内外のニュースも、東海林さんはいつも仕事場の窓から前向きに捉えてきたのではないか。

東日本大震災の時などは、笑いを届ける漫画と悲惨な震災がどうにも合わずつらかった、と振り返る。

年内終了を告知してから手紙が多数寄せられた。「あの絵がそのままわが家と重なりました」と「みんなの広場」に投書した福岡県の男性のように、アサッテ君と一緒に40年を生きた人も多いだろう。愛読してくださった皆さん全員に感謝したい。

2014年12月31日 02時30分
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[朝日新聞] 税制改革―「再分配」は置き去りか (2014年12月31日)

民間主導の自律的な経済成長は、アベノミクスの恩恵を受けた一部の家庭と企業が消費や投資を増やすだけでは難しい。偏る富を広く行き渡らせ、全体を底上げするために、税制の「再分配」機能を生かす視点が欠かせない。

そう考えると、政府・与党が決めた税制改革には疑問符をつけざるをえない。

まず、贈与税の非課税枠の拡大だ。

13年度に創設され、「孫への贈与」と話題になった教育資金贈与の期限の延長に加え、結婚や出産、子育て向けの新たな非課税枠を設ける。住宅資金用の特別枠も大幅に広げるという。

社会の一線を退きつつある世代がため込んだ資産を、何かと物入りな現役世代に移せば、消費を増やし、足元の経済の活性化にはつながるだろう。

しかし、こんな富の移転では豊かな家族とそうでない家族の差は広がる。国民全体を支える政策の財源を確保するという税本来の目的にもそぐわない。

企業への課税も心配だ。

安倍首相の強い意向を受けて、企業の利益に課税する法人税(国税)を中心に実効税率を2・5%強、1兆円規模で減税する。それをある程度穴埋めするため、法人事業税(地方税)の外形標準課税を強化する。

外形標準課税は、利益ではなく人件費の総額や資本金など「企業の大きさ」に基づいて負担を求める仕組みだ。現在は全法人の1%、資本金1億円超の企業が対象だ。赤字でも税金を納めることになるため、赤字法人課税と言われる税制である。

今回の改革では、対象は広げずに外形課税を強める。法人税の減税と合わせれば、利益を出している企業の負担は軽くなり、稼げていない企業は負担増となる。

企業にも、社会の一員として損益にかかわらず負担を求めることは必要だ。ただ、来春の統一地方選を意識して中小企業への適用拡大が検討すらされないなど、全体像を欠いた小手先改革の感が強い。

足元では、輸出型製造業など一部の大企業に利益が偏っていることが課題なのに、それを助長することにならないか。

安倍政権は、減税によって経済を活性化させようとする姿勢が強い。しかし、持てる家庭や企業からしっかり税金をとり、さらには予算編成を通じて、再分配を意識した政策運営を心がけることも大切だ。

それが国民の暮らしを支え、経済全体を成長させるのではないか。
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[読売新聞] 与党税制大綱 経済再生へ着実に改革進めよ (2014年12月31日)

経済成長に資する税制の見直しが、一歩前進したと言えるだろう。

自民、公明両党が、2015年度与党税制改正大綱を策定した。内容は政府がまとめる来年度予算案と税制改正関連法案に反映される。

最大の焦点だった法人税の実効税率は、現在の34・62%(標準値)から、15年度に2・51%、16年度に0・78%以上引き下げることで決着した。

実効税率の引き下げは、産業の空洞化に歯止めをかけ、海外から日本への投資を促す効果が期待される。経済政策「アベノミクス」が掲げる成長戦略の柱だ。

大綱が、欧州やアジア諸国並みの20%台への引き下げに一定の道筋を示したことは評価できる。

地方に本社や研究施設を移転・新設した企業の法人税を軽減する制度を創設する方針も示した。

高齢者が、子や孫に結婚や出産、育児といった費用を援助する場合は、一定額まで贈与税を非課税とする制度も新設する。

高齢世代から若い世代への資産移転を促し、消費拡大などに役立てるという狙いは妥当だろう。

成長強化や地域活性化に税制の後押しは有効だ。与党は今後も、経済再生につながる税制改革を、着実に進めなければならない。

気がかりなのは、法人税減税に伴う税収の減少額を埋める財源を十分確保できなかったことだ。

15年度の実効税率引き下げには1兆円強の財源が必要になる。

与党は、赤字企業でも事業規模に応じて納税する外形標準課税の拡大などで財源の一部を捻出したが、全額は賄えなかった。

特定業界の法人税負担を軽減する租税特別措置の縮小をごく一部にとどめた影響が大きい。

当面の財源不足を景気回復に伴う税収の上振れ分で補うのはやむを得ないが、厳しい日本の財政事情を考えると、財源不足の状態はいつまでも放置できない。

20%台への引き下げの実現に向け、租税特別措置などの大胆な改革に踏み込むべきである。

食料品など必需品の消費税を低く抑える軽減税率の導入時期を巡る議論も、決着は見送られた。

大綱は「17年度からの導入を目指す」とし、自公連立政権の合意内容を踏襲するにとどめた。

消費税率を17年4月に10%へ引き上げるのと同時導入を唱える公明党と、それに慎重な自民党との意見対立は解消できなかった。

与党は導入時期の合意を急ぎ、対象品目の選定作業などを加速していかねばならない。
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[読売新聞] 性犯罪の罰則 深刻な被害に見合う法改正を (2014年12月31日)

性犯罪は被害者の心身に深刻なダメージを及ぼす。強姦は「魂の殺人」とさえ言われる。

被害の重大さに見合うよう、罰則を厳しくするのは、有力な選択肢だろう。

法務省の有識者検討会が、性犯罪の罰則の見直しを議論している。強姦罪の法定刑の引き上げなど、10項目が対象だ。罰則強化が必要との結論になれば、法務省は刑法の改正手続きに入る。

刑法で強姦罪の刑の下限は、懲役3年となっている。強盗罪の5年よりも短く、「物を奪う罪よりも軽いのはおかしい」といった声が多い。国連の人権委員会からも再三、是正を求められてきた。

裁判員裁判の判決では、性犯罪の量刑が裁判官のみの裁判よりも重くなる傾向にある。検察の求刑を上回る判決も出ている。

卑劣な犯罪に対する国民の厳しい処罰感情を考慮すれば、厳罰化は自然な流れだろう。

刑法の強姦罪と強制わいせつ罪は、被害者の告訴を起訴の要件とする親告罪だ。この要件撤廃の是非も重要な論点だ。

被害者の多くは、警察に出向いて告訴手続きをすることに大きな心理的負担を感じる。「事件を思い出したくない」という思いも強い。性被害に対する周囲の偏見や加害者の逆恨みなどを恐れ、告訴を断念する例も少なくない。

検討会では、「被害者が年少者で自ら告訴できない場合でも、事件化が可能になる」と、撤廃を支持する意見が出た。一方で、「被害者の意思を担保する制度が必要だ」との慎重論も示された。

非親告罪にするのであれば、捜査や裁判の過程で被害者が再び傷つく二次被害を防ぐ必要がある。警察・検察がプライバシー保護などを徹底することが重要だ。

検討会が被害者や支援団体などに行ったヒアリングでは、「暴行・脅迫」がないと成立しない強姦罪の要件を緩和すべきだとの要望があった。被害者が恐怖のあまり声を出せず、抵抗できないまま被害に遭う場合があるからだ。

親や上司といった優位な立場を悪用した犯行には、加重処罰を求める声も上がった。

性犯罪は、再犯率が比較的高いため、加害者対策として、専門医によるカウンセリングなどの治療の充実を求める意見もある。

2010年に閣議決定された第3次男女共同参画基本計画は、罰則の見直しをはじめとする性犯罪対策の推進を、15年度末までの課題としている。検討会の議論を加速させねばならない。
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[朝日新聞] 沖縄冷遇―政府対応は大人げない (2014年12月31日)

あまりにもこわばった政府の対応ではないか。

11月の沖縄県知事選で当選した翁長(おなが)雄志(たけし)知事が先週、就任あいさつで東京に出かけた。ところが、沖縄関連の閣僚との面会はほとんど実現しなかった。

新内閣発足直後の慌ただしい時期であることに配慮し、翁長知事は「名刺だけでも」と日程調整を試みたが、安倍首相、岸田外相、中谷防衛相だけでなく、沖縄基地負担軽減担当でもある菅官房長官にも会えずじまい。山口沖縄担当相だけが応じた。菅氏は記者会見で「年内はお会いするつもりはない」とまで言い切った。

地元では「沖縄を冷遇」と大きく報じられ、県民の怒りを買っている。

翁長知事は政府の方針に反対し、米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古への移設阻止を訴えて当選した。保守系の翁長氏が移設反対に回った沖縄の現実を、政府は直視する必要がある。むしろ何を置いても政府側が新知事に理解を求めに出かけるのが筋だろう。政府の対応は大人げない。

さらに政府は沖縄振興予算の減額まで検討し始めた。地元の反発は増幅するばかりだ。

昨年のクリスマス、首相官邸で安倍首相と菅官房長官が当時の知事、仲井真(なかいま)弘多(ひろかず)氏に概算要求を上回る3500億円の予算などを約束した。仲井真氏が移設に伴う埋め立てを承認したのは、その直後だった。

あれから1年。政府の態度は冷たく一変したのである。

政府は、基地問題と振興策はリンクしないと説明し続けてきたはずだ。移設容認の見返りに振興予算を使ったと、自ら示したようなものではないか。

安倍首相は「沖縄に寄り添う」と言ってきた。ならば、振興予算を取引材料にするようなやり方はやめ、沖縄との対話の道を探るべきだ。「辺野古移設しかない」という政府の理屈には、沖縄県民の多くが強い疑念を抱いている。だからこそ、説明と対話が不可欠だ。

知事選後の衆院選でも、沖縄の4小選挙区とも辺野古移設反対派が制した。こうした民意を背負った翁長知事に対する一連の政府の対応は、知事を容認に転向させる揺さぶりとみられるが、逆効果しかないだろう。

26日深夜、沖縄に戻った翁長氏を励まそうと、80人近い県民や議員が那覇空港ロビーで出迎えた。そこにいた名護市民の男性が言った。「こんな仕打ちを受けると、ますます沖縄と政府の溝が深まる」。政府にぜひ、この声を受け止めてほしい。
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2014年12月30日

[東京新聞] 年のおわりに考える アベノミクスと「芝浜」 (2014年12月30日)

政府・与党が来年度の税制改正大綱をまとめます。振り返れば、経済の話題の中心はアベノミクスと、そして税でした。私たちはよく考えたでしょうか。

すっかり年末の風物詩となった「今年の漢字」。京都・清水寺の森清範貫主が大書したのは「税」の一文字でした。「消費税増税」騒動に明け、「消費税再増税の先送り」騒動に暮れた一年だったということでしょう。

四月に5%から8%へ十七年ぶりとなる消費税引き上げがありました。駆け込み需要の反動減が、政府や大半のエコノミストにとって「想定外」の大きさとなったのは周知の通りです。


◆何のための消費増税
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四〜六月期、七〜九月期の二期連続でマイナス成長。安倍晋三首相は二〇一五年十月に予定されていた10%への再増税を一年半先送りすることを決めました。

政府は春の増税に備えて五・五兆円もの経済対策をまとめ、「これで夏以降、景気は回復する」と言ったはずです。

それがアベノミクスによる物価上昇も加わって消費は今に至っても冷え込んだまま。追加の経済対策を迫られ、その規模は三・五兆円、合わせて九兆円に上ります。

消費税を3%引き上げたことによる税収増が一年間で約七・五兆円ですから、景気対策に費やした額の方が大きい。何のための増税なのかという気になります。

消費税は、導入時や増税のたびに巨額の景気対策が必要となるので、かえって財政を悪化させてきました。当然です、国内総生産(GDP)の六割を占める個人消費を破壊するわけですから。

安倍首相は増税先送りの理由を「景気が低迷して税収が落ち込めば元も子もない」と言いましたが、ならば消費税はこれ以上、引き上げるべきでないはずです。


◆所得再分配機能こそ
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消費税増税と関連して軽減税率の議論もありました。低所得者ほど負担が重い「逆進性」対策との触れ込みですが正しくありません。富裕層も同様に、いやむしろ富裕層の方が恩恵は大きい。

対象品目の線引きも難しいし、それをめぐり政官に新たな利権を生みかねません。軽減税率よりも低所得者に絞った「給付付き税額控除」の方が効果は高いのです。

税制改正大綱は法人税減税が最大の目玉といわれています。消費税は増税する一方で、逆に法人税は減税する。理解に苦しむ方も少なくないでしょう。

政府や経済界の言い分はこうです。欧州やアジアに比べて税率が高いので国際競争上、不利なうえ、海外からの投資(進出)も増えない。このままだと日本勢は税率の低い海外に逃げ、そうなれば法人税収は落ち込む、と。

半ば脅しのようにも聞こえますが、海外の投資が増えないのは法人税だけの問題ではなく、規制や需要の低さなどさまざまなはずです。欧州は法人税こそ低いが社会保険の負担は重い。そもそも赤字やら節税やらで法人税を納めていない企業は七割に上るのです。

それでも企業寄りの政策に熱心な安倍政権ですから法人税減税は既定路線でした。アベノミクスの第三の矢、成長戦略の柱として「数年で20%台を目指す」と海外と遜色ない水準にする方針です。しかし、減税しても、投資もせず内部留保をため込むのではとの疑念がぬぐえません。

安倍政権の最大の問題は、アベノミクスでこれだけ格差が拡大しているのに、税による所得再分配に冷淡なことです。格差や貧困を放置していると言わざるを得ない。税には、財源調達機能とともに所得再分配機能という重大な役割があるのです。

たとえばアベノミクスで潤った株保有者の譲渡益や配当への課税方法(20%の分離課税)を変えるとか、富裕層の資産への累進強化、所得がありながら年金も受給する高齢者の二重控除の問題など…。首相は株価が上がれば問題はすべて解決するとでも思っているのか、それとも株高に酔って民の声が聞こえないのでしょうか。

年の瀬、酔うといえば、落語の人情話「芝浜」が思い浮かびます。早朝の芝浜で大金入りの財布を拾った魚屋の主人は、もう働かなくていいと大酒を飲んで寝てしまう。女房は夫に内緒で財布を届け出、夫には「夢を見たんだろ」と諭す。心を入れ替え、真人間へと立ち直った夫に、妻は謝って真実を打ち明ける…。


◆国民こそが賢妻たれ
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いうなればバブルに酔って自分を見失った夫を、機転の利く妻がたしなめたわけです。株高だけで実体経済を好転できないアベノミクスを「この道しかない」と繰り返すばかりの首相−。ここは国民が賢妻となって夢から覚めさせるしかないと思います。
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[産経新聞] 【主張】インド洋津波10年 教訓を共有し連携深めよ (2014年12月30日)

22万人を超える死者・行方不明者を出したインド洋大津波から10年が過ぎた。

2004年12月26日にインドネシア・スマトラ島沖を震源とする巨大地震=マグニチュード9・1=が発生し、大津波による被害は東南アジアからアフリカ大陸東岸にまで及んだ。

その6年3カ月後の11年3月、東日本大震災が発生した。日本とインドネシアはともに地震・津波の多発国である。災害の教訓を互いに学び、継承していくことの大切さを改めてかみしめたい。

インド洋大津波では、警報体制が未整備だったことが被害拡大の要因に挙げられた。その反省から、国際協力によりインド洋津波警報システムが構築され、11年秋から運用されている。日本は気象庁が中心となり技術支援した。

インド洋大津波以降、アジアでは東日本大震災のほかパキスタンや中国・四川でも大規模な地震災害があった。また、地球温暖化や森林破壊などの環境の変化により大型台風の発生や洪水、干魃(かんばつ)などの極端な気象が増加する傾向も指摘される。この数年ではタイやミャンマーの大洪水、フィリピンの台風被害など気象災害が相次いでいる。

災害観測や警報システムなどの情報と技術を提供することは、国際社会で日本が果たすべき最も重要な役割の一つである。今後も一層、防災を通してアジアの連携に貢献したい。

観測・警報システムなどハード面の整備以上に、重要な課題がある。災害の記憶を風化させず次世代に継承し、命を守るための防災行動を徹底することだ。

東日本大震災では、地震発生の数十分から1時間後に押し寄せた大津波によって、1万8千人を超える人命が失われた。「想定外」の津波に対し、防災システムは十分に機能しなかった。

防波堤などの防災施設の強化や正確な情報発信は、着実に進めなければならない。その一方で、施設や情報を過信し、依存することで「地震が起きたらすぐに高い場所に避難する」という津波防災の鉄則がおろそかにならないよう留意する必要がある。

今月で昭和東南海地震から70年が過ぎ、来年1月には阪神大震災から20年となる。国内外の災害から教訓を学び、地震・津波への備えと心構えを新たにしたい。
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[産経新聞] 【主張】中国の腐敗撲滅 公正透明な「浄化」なのか (2014年12月30日)

またもや汚職による中国高官の失脚である。

共産党の枢要ポスト、統一戦線工作部長を兼ねる令計画・人民政治協商会議副主席に対し、「重大な規律違反の疑い」で党の調査が始まった。

石油利権と警察権力を握り、習近平国家主席の最大の政敵だった周永康・前党政治局常務委員の司法処分が決まったばかりだ。令氏も習氏の対立派閥を率いる胡錦濤・前国家主席の側近である。

汚職追放を通じ、すでに往時のトウ小平に次ぐともいわれるような習氏への権力集中が加速すれば、掣肘(せいちゅう)する勢力が不在の中、習氏の強硬路線が激化しかねない。憂慮すべき事態である。

中国で広がる腐敗の浄化が急務であることは論をまたない。問題は、習氏が旗を振る汚職撲滅が、対抗勢力を追い落とし、権力を一手に掌握する意図を込めて行われていないか、という点にある。

令氏は胡氏と同じ共産主義青年団(共青団)派に属する。その失権が胡氏の影響力を封じ、他の共青団派高官の排除に利用されるとの見方は強い。先の周氏の処分をめぐっても、後ろ盾の江沢民・元国家主席ら上海閥の影響力が減殺されたとの観測がある。

対照的に、習氏ら2世政治家で作る太子党の大物には、ライバルとなって習氏を揺さぶる可能性もあった薄煕来氏を除けば、司直の手は及んでいない。汚職高官退治が権力闘争に使われているとの疑念が強まるゆえんである。

内にも外にも強硬派である習氏の権力が強大化し、近年の党の集団指導的体制が習氏の個人独裁的体制に転化していけば、チベット族やウイグル族に対する弾圧、香港への政治統制や台湾への統一攻勢が強まっていく恐れがある。

軍事力増大を背景に東シナ、南シナ海などで戦後秩序を崩そうとする中国の海洋進出も、習時代になって活発化してきた。習氏への権力集中に伴い、地域がさらに不安定化しないか心配だ。

汚職蔓延(まんえん)の背景には、市場経済化でもたらされた富の分配が、党の権力に委ねられていることがある。現状では司法も含めて全権力を党が握っている。

集権化の行方にかかわらず、浄化運動は公正かつ透明でなければならない。それを通じて、中国は真に腐敗の根を絶つべきだ。それには、民主化へ向けて政治改革に踏み出すことが不可欠である。
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[毎日新聞] 社説:経済対策 必要性も効果も疑問だ (2014年12月30日)

安倍内閣が総額3.5兆円規模の経済対策を閣議決定した。個人消費を喚起したり地方の活性化を促したりするのが狙いだという。

しかし、そのメニューには場当たり的な事業が並び、アベノミクスが目指す成長戦略にどれだけ役立つのか疑問が募る。財政が悪化し続けている中で巨額の税金を使うからには、政府はその必要性と効果をしっかり説明する責任がある。

経済対策はもともと、2015年10月に消費税率を10%に引き上げるという前提で検討されていた。再増税に耐えられるよう、日本経済を底上げしておくという趣旨だったはずだ。ところが再増税が見送られたにもかかわらず、経済対策は当初想定していた2兆円程度から大幅に増額して実施されることになった。

財源には企業業績の回復で税収が当初予想以上に増える分などを充て、赤字国債は発行しない。財政再建にも配慮しているように見える。

しかし経済対策は本来、景気が大きく落ち込んだ場合に緊急的に実施するものだ。税収が増える情勢にもかかわらず、大幅に増額して実施する必要があるのか。税収が増えた分、赤字国債の発行額を減らせば将来の国民負担を軽くできる。あえて経済対策にまわす理由を納得いくよう説明すべきだ。

アベノミクスの恩恵は一部の大手企業や富裕層に限られ、国民各層には行き渡っていない。中小企業が多い地方、賃金が上がらない消費者はむしろ、円安による原材料や消費財の高騰で打撃を受けている。今回の対策は、その穴埋めを図ろうという発想のようだ。

経済成長を持続させるには企業の投資を促し、利益をさらなる投資や賃金に振り向け、消費拡大につなげることで好循環を生む必要がある。経済対策の役割はその起爆剤になることだが、今回はその役割にそぐわない内容が目立つ。

対策の目玉とされる地方のための交付金は、特産品の購入を促す商品券や低所得者向けの燃料費補助などが中心だ。4月の消費増税で失速した住宅市場のテコ入れ策として、省エネ対応の住宅を新・改築した場合、金券や商品に交換できる「住宅エコポイント」を付与する制度の復活も盛り込まれた。

それらの効果は補助金やポイントを使う1回限りにとどまり、持続するものではない。地方中心に手っ取り早く個人消費を増やし、国内総生産(GDP)をかさ上げするためのバラマキという印象はぬぐえない。

財政出動すればその分、GDPは伸びる。しかし、それは国民経済の実力とはいえない。アベノミクスの目指すところでもあるまい。

2014年12月30日 02時32分
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[毎日新聞] 社説:マンガと戦争 身近で生々しく伝わる (2014年12月30日)

戦争の体験談を聞いたことがないという人が20代で60%、30代で57%にのぼる。毎日新聞社と埼玉大が行った時事問題世論調査「日本の世論2014」で明らかになった。来年は戦後70年。戦争の悲劇を未来へ伝えるのは社会全体の課題だ。

戦争を経験した人が減っていく中で、若い世代のマンガ家たちが想像力を駆使して、戦争を表現しているのが目をひく。なじみやすい表現だが、人の心を深く描いていて、戦争を胸の奥で実感できる。

こうの史代さん(46)は「夕凪(ゆうなぎ)の街 桜の国」で広島に投下された原爆の影響を戦後を生きる人々の視点から描いた。被爆に苦しむ姿がじわじわと伝わってくる。その後、「この世界の片隅に」では戦時中の広島県呉市の生活などを描いた。

今日マチ子さん(34)の「cocoon(コクーン)」は沖縄戦が舞台。看護部隊に参加した少女たちの惨劇を描く。さらに、「アンネの日記」に着想を得たマンガ「アノネ、」を発表。アンネやヒトラーを思わせる人物が日本人名で登場し、幻想的な世界の中で、戦時下の差別や強制収容所の生活をあぶり出す。

この中には賞を受けたり、映画化や舞台化されたりして評判になった作品もある。2人の作品とも、声高に反戦を叫んだり、政治的に告発したりはしない。

戦争は日常生活のすぐ隣にある身近なもので、主人公たちはいや応なく、巻き込まれてしまう。社会が大きな流れで戦争に向かう時、あらがえずに不幸にのみ込まれる。

タッチは優しい。重い題材がやわらかく描かれる。マンガ研究家のヤマダトモコさんは「描き込まないで、さらっと読ませる。でも、感覚的にも感情的にも、ピリピリと伝わってくるものがある。戦争の怖さの本質とは何なのかを考えさせる」と指摘する。戦争の芽は日常生活の中にあるとも感じさせるという。

女性の目で戦争を描いているのも特徴的だ。身体の成長や恋愛感情とともに、世の動きが描かれる。読者は生々しく肌で感じとってしまう。

2人以外にも、父親のシベリア抑留体験や母親の空襲体験をもとに執筆するおざわゆきさん(50)らも挙げられるだろう。

今日さんは今年の夏に「いちご戦争」という本を出した。ある少女が見た戦争の夢を描いたもの。果物が武器になり、少女たちの腹からは内臓のようにキャンディーが散乱している。戦争は甘い菓子のように人を引きつけるということか。

体験記や記録に接することはきわめて重要だが、奔放なイメージによってこそ表せる戦争の恐怖もある。さまざまな表現に親しむことで、戦争への想像力を鍛えたい。

2014年12月30日 02時30分
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[朝日新聞] 日韓国交50年―歴史の節目に歩み寄りを (2014年12月30日)

いまだ晴れぬ歴史の情念が、日本と韓国の間に重い澱(おり)のように横たわっている。戦時下で将兵たちの性の相手をさせられ、人権や尊厳を傷つけられた慰安婦たちの問題である。

この問題をめぐる朝日新聞の報道を検証した第三者委員会(中込秀樹委員長)は、韓国・済州島で暴力的に女性を連れ出したとする故吉田清治氏の証言について、長年にわたって誤報を放置し、取り消しも遅れたことを厳しく批判した。

「読者の信頼を裏切るもの」との指摘について、社説を担当する私たち論説委員も真摯(しんし)に受け止めている。何より事実を重んじることが新聞づくりの基本であることを肝に銘じたい。

慰安婦たちはどんな人で、どうやって集められ、どんな生活を強いられたのか。その実像はいまも明確になっていない。

朝日新聞は第三者委員会から出された指摘を踏まえ、多角的な取材によって実像をつかむ努力を重ねてゆく考えだ。論説委員室でも、冷静に歴史に向き合う論議を続けていきたい。

■なお解明を待つ実像

閉ざされていた歴史の闇に、光があたり始めたのは1990年代の初めだった。

長かった軍事独裁政権の下で言論や表現の自由が制限された時代が去り、韓国の元慰安婦たちは、ひとりふたりと名乗り出始めた。

それから20年以上の時が流れたが、問題はいまも克服されないまま日韓の歴史的な課題であり続けている。

いま、それぞれの国内で強調される「記憶」は、むしろ以前よりも偏りが目立つ。「慰安婦の多くは自発的になった」「大半は暴力的に連れていかれた少女たちだった」などの言説だ。

朝鮮半島で日本軍などが、組織的に人さらいのように女性を連れて行ったという資料は見つかっていない。一方で韓国には「軍に無理やり連れていかれた」と証言する女性がいる。

さまざまな実像が戦後70年という歳月で見えにくくなってはいるが、解明の努力を続けることは当然の責務であろう。

■協力すべき課題山積

日本と韓国は国交締結後、ときに互いを支え、ときに競いながら今日までやってきた。その歩みは新年で半世紀を迎える。

もちろん、日韓が向き合うべき課題は、歴史認識問題だけではない。自由貿易圏構想や、同じ対米同盟にもとづく安全保障など、多岐にわたる。

とりわけ北朝鮮の脅威にどう立ち向かうかは共通の課題だ。日米韓はきのう、北朝鮮の核・ミサイルなどの秘密情報を共有するための覚書を交わした。

地理的にも経済的にも共通点の多い隣国同士が手を組むべき課題は山積している。それぞれの分野で違いを乗り越え、少しでも国と国の距離を縮めることこそが政治の責任だ。

その中で慰安婦問題は人権問題であり、被害者らをいかに救済するかを中心にすえねばならないのは当然のことだ。国の威信をかけて、勝ち負けを競うようなテーマではない。

来年こそ日韓の歩み寄りを実現するためには何が必要か。

日本側が留意すべきは、安倍政権が出すとみられる戦後70年の首相談話の重みである。

歴史問題を乗り越えるうえで好機になりうる一方、逆に負の影響ももたらしかねない。

韓国側は、慰安婦問題での反省と謝罪を盛り込んだ93年の河野官房長官談話の継承を期待している。安倍首相も受け継ぐ方針をことしの国会で表明した。

真の和解に役立つ談話を練ったうえ、さらに互いに前の政権で合意に近づいていた元慰安婦たちへの新たな対応を実現する工夫と努力を望みたい。

日本政府は50年前の日韓請求権協定で解決済みとの主張を続けるが、たとえば日本政府として被害者と直接対話するなど、協定の枠組みを維持しながらできることは少なくない。

■深刻な感情の悪化

一方、就任からもうすぐ2年を迎える韓国の朴槿恵(パククネ)大統領も関係改善へ向けて真剣な行動をおこすときだ。

日本が加害者であるからといって、ただ提案を待つだけでは問題の決着はありえない。

韓国政府は、日本を批判する元慰安婦の支援団体との対話を重ね、コンセンサスを得る必要がある。また、韓国政府が取り組む慰安婦問題の白書づくりでは、これまでの研究成果を踏まえた冷静な対応が求められる。

政治が疎遠な関係を続ける間に、双方の国民感情の悪化は深刻になっている。

国交正常化に、安倍首相の祖父の岸信介氏は大きく関わり、朴大統領の父、朴正熙(パクチョンヒ)氏は国内の反対を押し切って決断した。このままでは日韓双方で当時の決断を疑問視する声さえ強まりかねない。

日韓は建設的な議論を重ね、歩み寄る必要がある。両首脳には来年こそ、隣国関係の改善に指導力を発揮してもらいたい。
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[読売新聞] 小中一貫校 導入の効果と課題見極めたい (2014年12月30日)

義務教育の9年間を、「6年・3年」にとらわれずに教える小中一貫校が制度化される。

中央教育審議会の答申を受けた文部科学省は、来年の通常国会に学校教育法などの改正案を提出する。2016年度からの導入を目指している。

新たな仕組みを教育の質向上につなげられるかが問われよう。

各市町村の判断で、9年間を「4・3・2」や「5・4」に区切ったり、小学校で中学の内容を先取りして教えたりできるのが、小中一貫校のポイントだ。

答申は、2種類の形態を提案した。一つは、1人の校長が運営する「小中一体型」、もう一つは、校長や教職員組織は別々のまま、小中が協力して一貫教育を行う「校舎分離型」だ。

小中一貫校は、校舎の集約など施設整備に費用がかかるのが障害とされる。既存の学校施設を活用し、費用負担を抑える校舎分離型も選択肢に加えたことで、普及を促す狙いがあるのだろう。

一貫校の制度化を通じて、中学になじめず、不登校などが増える「中1ギャップ」の解消が期待される。子供の理解力に応じて、弾力的なカリキュラムを組めるようにする意義は小さくない。

文科省の調査では、政府の特例校制度などにより、既に小中一貫教育を行っている学校のうち、9割が成果を認めている。

例えば、学習内容が難しくなる小学校高学年から、中学のように教科専門の教師が教える「教科担任制」を採用した結果、学力テストの成績向上や子供の学習意欲の高まりが見られたという。

一方、課題を挙げた学校も9割に上る。9年間を同じ環境で過ごすことによる人間関係の固定化を心配する声は根強い。

既存の公立の小中学校と指導方法や学習進度が違いすぎると、転出入する児童・生徒が戸惑うケースも懸念される。

各自治体は効果と課題をしっかりと見極めることが、まずは重要だ。導入する際には、転校生へのきめ細かな指導など対応策を講じることが欠かせない。

私立中学を受験する子供が多い地域や、既に公立の中高一貫校が設置されているところもある。自治体はこうした実情にも十分配慮して検討する必要がある。

小中一貫教育で、9年間の指導方針を明確にすることも大切だ。新たに住む地域を決める際、公立校の教育状況を参考にする保護者は多い。自治体は情報発信の充実に努めてもらいたい。
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[読売新聞] 原子力人材育成 原発政策に新増設も加えよ (2014年12月30日)

原子力発電所を円滑に利用していくには、技術の継承が不可欠だ。

原子炉の新増設ができないままでは、訓練や活躍の場が確保できず、有能な人材は育たない。

経済産業省の有識者会議「原子力小委員会」が、原子力政策に関する中間報告書をまとめた。

委員会では、「新増設の必要性を明記すべきだ」などの声が相次いだが、報告書は、そうした意見を紹介するにとどめ、新増設の方針を打ち出さなかった。中途半端な内容と言わざるを得ない。

一方で、報告書は、新増設を行わない場合の弊害を挙げた。

米国の例を挙げ、「スリーマイル島原発事故以来、新増設を行わなかった結果、技術・人材が失われた」と指摘した。これにより、「製造技術だけでなく、原子炉のメンテナンスも、我が国に依存せざるを得なくなった」という。

原発がエネルギーの安定供給、地球温暖化対策に貢献するとも明記した。新興国では電力需要の急増に対応して原発新設が活況で、日本の技術に対する期待は大きいことも強調している。

こうした点を踏まえれば、政府は原発の新増設、建て替えへと歩を進め、資金支援制度など必要な施策を示すことが肝要である。

東京電力福島第一原発事故後、原子力分野へと進む若者は減っている。電力会社や原発関連企業も採用を絞り込んでいる。政府が明確な方針を示していないため、将来を展望できないからだろう。

東大や東工大、東北大など原子力研究の拠点大学が、文部科学省の補助を受け、今秋、福島第一原発の廃炉に必要な人材の育成に乗り出した。来年度からは、参加大学が増える見通しだ。

だが、廃炉現場で働くだけが目的では、有能な人材がどれほど集まるだろうか。福島第一原発の廃炉作業を担う人材さえ確保できない恐れがある。

福島第一原発では今月、4号機の燃料プールから燃料を取り出す作業が終了したが、これからの道のりはなお険しい。

1?3号機は汚染が激しい。4号機以上の困難が予想される。政府と東電の計画では、廃炉完了までに30?40年かかる。

強い放射線にも耐えられるロボット技術や、放射能汚染除去の新手法を開発せねばならない。

福島第一原発事故の教訓を生かし、安全性を大幅に向上させた新型の原発を建設することで、産官学に幅広い人材を育てる。そうした原子力政策を確立すべきだ。
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2014年12月29日

[東京新聞] 年のおわりに考える 見ず、聞かずの原発被害 (2014年12月29日)

福島の復興はこの一年、どれほど人間の痛みの問題として語られてきたでしょう。原発事故から三年九カ月を経てもなお、被害救済は進んでいません。

福島県ではいまだに約十二万人が県内外での避難生活を強いられています。安倍政権は事故はもう終わったかのように、各地の原発の再稼働を加速させようとしています。たしかに先の衆院選で自民・公明の与党は三分の二の議席を獲得しました。その選挙中に、被災者の苦悩に向き合う公約や言葉はどれほどあったのでしょうか。印象に残りません。


◆顧みられない犠牲
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「ここのおいしい水産物を多くの皆さんに食べてもらいたい。風評被害を払拭(ふっしょく)しなきゃいけない」。安倍晋三首相は総選挙が公示された今月二日、福島県相馬市(福島1区)の漁港で第一声を上げました。「経済対策で復興を推し進める」というアピールです。一方、今も放射能汚染に苦しむ人々の生活再建をどうするのか、強いメッセージはありません。福島1区は原発事故後、全村避難となった飯舘村を含む選挙区です。

東京電力福島第一原発から北西五十キロに位置する飯舘村では先月半ば、村民が一丸となって原子力損害賠償紛争解決センター(原発ADR)に第一次申し立てをしました。求めたのは、政府が避難指示を遅らせたことによる初期被ばくの慰謝料や、現在月十万円の精神的慰謝料の増額など。参加者は村の人口の半数の二千八百人余に上りました。

その事務局を担ったのが、隣接する伊達市に避難し、仮設住宅に暮らす酒井政秋さん(36)でした。

都会に憧れ、高校を卒業して上京した酒井さんですが、古里を離れてはじめて村に愛着を覚えるようになったと言います。


◆再稼働に向けた帰還
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十年ほどで飯舘村に帰郷し、友人家族が経営する小さな縫製工場で工場長をしていました。地域に雇用の場をつくることで、自分も古里とつながろうと思ったのです。工場は十人の村の女性の働く場に育ちました。ですが、原発事故で夢は破れます。従業員は避難でばらばらになりました。

原発事故はまた、賠償問題が地域の人の感情を複雑にこじれさせます。避難地域指定という国の線引き一つで、賠償の対象になる人とならない人に分けられる。酒井さんが避難する伊達市は多くが賠償の対象ではありません。飯舘村のADR申し立ても、軋轢(あつれき)を覚悟しなければなりませんでした。

一方、飯舘村に先立つ浪江町の集団ADRでは、精神的慰謝料の「一律月五万円増額」という和解案が示されましたが、東電が和解を拒んでいます。救済されずに放置される、理不尽ともいえる状況の一つ一つが被災者の心を傷つけます。

酒井さんも「何も言わない方がいい」と思った時がありました。それでもADRに加わったのは、被害者が声を上げなければ被害はなかったことにされてしまうからです。そのことは戦争中の原爆や空襲被害、水俣病などの公害の歴史が物語っています。

年明けとともに政府は、九州電力川内原発(鹿児島県)、関西電力高浜原発(福井県)の再稼働に向けた動きを本格化させる。「原発回帰」の意志は強固です。そのためには、避難している被災住民の帰還や賠償の課題は早く終わらせたい。避難解除の要件となる年間積算線量の緩和もそのためでしょう。

福島原発の周辺では田村市都路地区を皮切りに、今秋には川内村の一部を解除し、来春には楢葉町の指定も解かれようとしています。解除されれば賠償も打ち切られる。避難先での生活が維持できず、放射能への不安はあっても帰らざるを得ない人は少なくない。住民の合意が不十分なまま、強引に帰還が進められているかのようです。

原発事故の後、全国に離散し、分断されてきた被災者たちに、再び一つにつながろうとする動きがありました。十一月十六日、福島市の公会堂で開かれた「原発事故被害者集会」。集まったのは、各地で被害救済の裁判やADRへの申し立てを起こした人たちです。


◆被災者を孤立させない
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事故は子どもや若者の夢を奪い、大人たちも先の見えない暮らしの中にとどめおかれている。この救済すら終わっていないのに、再稼働を促す政府の方針に沈黙はできない−。発信されたのは「福島を忘れさせない」という強いメッセージでした。

会場に酒井さんの姿がありました。飯舘村の集団ADRの横断幕に「償(まや)え!」という福島の言葉とともに、原発事故で傷つく前の美しい古里の風景写真を刷り込みました。

この叫びを見過ごし、孤立させることがあってはなりません。
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[産経新聞] 【主張】回顧2014 「法と正義」の破壊許すな 平和を脅かしているのは誰だ (2014年12月29日)

ベルリンの壁崩壊と冷戦終結から四半世紀がたち、自由と民主主義の勝利は世界の基調となった。だが、この1年は冷戦後の国際秩序を揺るがす脅威が、日本を含む自由主義諸国に向けられた。

軍事力で隣国ウクライナを蹂躙(じゅうりん)したロシアであり、東シナ海や南シナ海での覇権主義を隠さない中国のことだ。国際ルールや地域の平和と安定を軽視し、力による現状変更を狙う勢力が、鮮明にその姿を現した。

「法と正義」の価値観を守る戦いは、戦後70年となる2015年も続く。

≪中露の野望を阻止せよ≫

ウクライナ南部のクリミア半島を併合したロシアは、ウクライナ東部の親露派勢力への軍事支援を続けた。明白な主権侵害に対して米欧は対露制裁を科したが、ロシアは北大西洋条約機構(NATO)の攻撃能力などを脅威とみる「修正軍事ドクトリン」を発表して反論した。世界を冷戦時代に引き戻すかのような動きである。

自由と民主主義、法の支配に基づく価値観外交を唱える安倍晋三首相は、その一方でプーチン露大統領との個人的信頼関係を重視している。対露制裁で欧米に後れを取る印象も与えた。

北方領土問題を抱える日本固有の立場と、普遍的な価値観をどう両立させるかという難題に引き続き取り組まなければならない。

地域の安全保障や経済秩序に大きな影を落とすような、中国の動きもより顕在化した。

尖閣諸島奪取を狙う中国は、11月に安倍首相と習近平国家主席との初の首脳会談が実現した後も、自国の公船による日本領海侵入を繰り返している。

東シナ海上空に中国が一方的に設定した防空識別圏では、中国軍機が自衛隊機に異常接近する一触即発の事態が生じた。南シナ海では米軍の対潜哨戒機を威嚇した。米政府が「明白な挑発行為」と非難した意味は重い。

中国は「九段線」と呼ぶ独自に引いた境界を根拠に南シナ海の領有権を主張し、係争海域にある岩礁の軍事拠点化も急いでいる。

「アジアインフラ投資銀行」の設立を仕掛けるなど、軍事面のみならず経済的覇権への意図にも警戒を強めなければならない。

日本にとっての大きな誤算として、制裁を一部解除してまで再開した北朝鮮との政府間協議で、思ったような成果を挙げられなかったことを挙げざるを得ない。

「夏の終わりから秋の初め」と約束された日本人拉致被害者に関する再調査の初回報告は、ほごにされたままだ。国連では人権問題をめぐる北朝鮮非難決議の採択にこぎ着けたが、北は決議を主導した日本を「焦土化」するなどと威嚇している。協議の進展をどのように図っていくかが問われる。

≪自由貿易への姿勢示せ≫

厳しさを増す国際環境の中で、いかに繁栄を取り戻し、より確かな安全保障体制を実現するかを日本は突き付けられている。重要なステップとして、集団的自衛権の限定行使容認という判断に踏み込んだのは画期的だ。日米同盟による抑止力強化に欠かせない。

それを具体的に実現するための関連法案の成立と、「日米防衛協力の指針(ガイドライン)」改定は来年の重要課題だ。

環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)交渉は、日米の対立がネックとなって膠着(こうちゃく)状態にある。アジア太平洋地域の新たな貿易・投資ルールとなるTPPには、台頭する中国を牽制(けんせい)する戦略的な狙いもある。

アベノミクス路線を進める安倍政権は、デフレ脱却を確実にするため消費税の再増税を延期した。成長戦略の柱に位置付けたTPP交渉の妥結は極めて重要だ。自由貿易拡大も、世界で推進すべき重要な価値観だ。それに取り組む姿勢は内外から問われよう。

終戦70年の節目を、中国は「抗日戦争と反ファシズム戦争の勝利70年」とし、ロシアとも連携して大々的な反日宣伝を仕掛けてくる構えだ。韓国も慰安婦の「強制連行」に固執し、歴史認識で中国と歩調を合わせるだろう。

これらの国の宣伝戦で「歴史修正主義の安倍政権は戦後体制を否定している」との誤った認識が欧米の一部に浸透し始めている。

力による国境線や現状の変更は認めない戦後の国際秩序の根幹を侵しているのは一体誰なのか。日本が世界に発すべき点だ。
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[毎日新聞] 社説:イスラムと世界 対テロへ新たな連携を (2014年12月29日)

こんな世界を私たちはかつて見たことがあるだろうか。

21世紀の中東で過激派組織「イスラム国」が復古的な国家の樹立を宣言し、西アフリカのナイジェリアでは西洋的教育を批判するイスラム組織「ボコ・ハラム」が多くの少女を誘拐、自爆攻撃さえ命じている。

内戦が続くシリアでは2011年以降の死者が20万人を超え、2200万人の人口の約半数が国外難民、国内避難民となった。深刻な人道危機を前に、国際社会はほぼなすすべがない。北アフリカでもペルシャ湾岸でも過激派が台頭し、時代錯誤的な「イスラム的混沌(こんとん)」が続く。世界は一体どこへ向かっているのか。

◇アフガン撤退後の不安

「アフガニスタンで13年続いた米国の戦闘任務は今月で終了する。米国は責任をもって戦争の幕を引く」。オバマ米大統領は15日、アフガンからニュージャージー州の基地に帰った兵士の前で上機嫌に演説した。

「米国の転機」(オバマ大統領)である。政権発足時はアフガンとイラクに計18万人近くいた米兵が年明けには1万人強に減る。多くはアフガン軍の訓練や後方支援要員だ。ブッシュ前政権が始めた二つの戦争は確かに終幕を迎えたかに見える。

だが、本当にそうか。まず「イラクの教訓」をかみしめたい。11年にイラクを撤退した米軍は今夏以降、同国とシリアで「イスラム国」への空爆を余儀なくされた。新たな、終わりの見えぬ戦いが始まったのだ。

「ソ連の教訓」もある。1979年にアフガンへ侵攻したソ連軍はイスラム勢力の抵抗により10年後(89年)に撤退した。四半世紀前のアフガンは深い雪に覆われ、ソ連軍の戦車が残骸をさらしていた。そんな状況をゴルバチョフ・ソ連共産党書記長は「血の滴る生傷」と呼んだ。

ソ連軍撤退後、急進イスラム勢力のタリバンが急速に台頭して実効支配を確立したように、米軍撤退後のアフガンで何が起きるかは読みきれない。同国に平和と安定が訪れることを期待するが、不安も大きい。

たとえば、治安維持の権限をアフガン軍・警察に引き渡す米軍・国際治安支援部隊(ISAF)の01年以降の死者は約3500人(うち米国人は約2400人)だ。対してアフガン軍・警察の死者は今年一年だけで5000人に達するという。軍事面では心細い印象がある。

ともあれ01年の米同時多発テロ後の「テロとの戦争」は大きな節目を迎える。さまざまな問題を抱えた「戦争」だった。特にブッシュ前大統領が軍事作戦を「十字軍」と表現し(後に訂正)、イスラエルと共闘態勢を組んだことでアラブ諸国は米国と距離を置いた。ブッシュ政権は最も連携すべき国々を遠ざけたのだ。

オバマ政権の責任もある。09年に感動的な「イスラムとの対話」演説をしたオバマ大統領も中東の諸問題には消極的で、イスラム世界には失望が広がった。シリア情勢ではロシアと中国が国連安保理決議に4度も拒否権を行使した。この前代未聞といえる出来事は、とりわけ米国の調整能力の衰えを印象付けた。

まとまりを欠く国際政治と過激主義の高まりは無関係ではあるまい。イラク戦争を境に「米国による平和(パクス・アメリカーナ)」と呼ばれた枠組みは過去のものとなり、独裁政治に対する民衆運動「アラブの春」が行き詰まる中、西欧の影響を排してイスラムに解決を求める過激主義が勢いを得たのは確かだ。

◇日本の存在感を示せ

カリフ(預言者ムハンマドの後継者)たることを宣言した「イスラム国」のバグダディ指導者は黒ずくめの服装で聴衆の前に現れた。日本エネルギー経済研究所の保坂修司・研究理事によると、服装はムハンマドを思わせ、演説は7世紀に初代正統カリフになったアブー・バクルの発言にそっくりだった。

「イスラム国」は、中東の線引きに関する列強の「サイクス=ピコ協定」(1916年)を無視した大イスラム国家の建設をめざす。植民地主義への反発や、7世紀以降のスンニ派対シーア派の構図を踏まえ、一部イスラム教徒が「イスラム国」の思想に共感しているのは確かだ。

だが、同時テロを実行したテロ組織アルカイダが「残虐過ぎる」と言うほど「イスラム国」の行動は常軌を逸しており、「文明への挑戦」というよりイスラムに名を借りた破壊行為に過ぎない。放置すればイスラム教のイメージを損ない、イスラム諸国には大きな損失となろう。

シリア問題で米国と対立した露中も多くのイスラム人口を抱えており、悪影響が及びかねない。「イスラム国」などの過激派を包囲し、解体に追い込むべく、大きな観点で国際的な連携を立て直す時である。

日本もアラブ世界との良好な関係を生かして協力したい。外務省の上村司・中東アフリカ局長は、中東で世界史的な変動が続いているとの認識を示し、日本としては主要な役割を果たす国々の信頼醸成を図り、安定した関係を保つ努力が大切だと説く(「季刊アラブ」14年春号)。

平和的な仲介者というイメージだろう。年明けの中東歴訪を通じて安倍晋三首相が日本の存在感を示すよう期待したい。

2014年12月29日 02時30分
posted by (-@∀@) at 12:20| Comment(0) | TrackBack(0) | 毎日新聞 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする