2009年08月31日

[毎日新聞] 社説:衆院選、民主圧勝 国民が日本を変えた 政権交代、維新の気概で (2009年8月31日)

まさに、怒濤(どとう)だ。自民党の派閥重鎮やベテランが、無名だった新人候補にバタバタと倒されていった。国民は断固として変化を選んだ。歴史に刻まれるべき政権の交代である。

衆院選は民主党が300議席を超す圧勝を収め、同党を中心とする政権の樹立が決まった。自民党は初めて衆院の第1党から転落するだけでなく議席が3分の1近くに激減する壊滅的大敗を喫し、自公政権は瓦解した。

選挙を通じ政権を担う第1党が交代する民主主義の常道が、日本の政治では長く行われずにいた。政権選択が2大勢力で正面から問われての政権交代は、戦後初めてである。


◇歴史的な体制の転換

民主党に不安を抱きながらも政治を刷新しなければ閉塞(へいそく)状況は打破できない、との国民の切迫感が、すさまじい地殻変動を生んだ。鳩山由紀夫代表を首相として発足する新政権の前途は多難だ。だが数をおごらず、政治を一新する維新の気概と覚悟で変化を国民に示さねばならない。

「風」などという段階をはるかに超え、革命的とすら言える自公政権への決別だ。約7割という投票率が国民の関心と、政治のあり方を変える強い意志を物語る。その象徴が、金城湯池とされた自民常勝区の崩壊だ。変化を求める民意は、世代交代による人材の入れ替えに発展した。

政権交代と言えば、93年衆院選で成立した細川内閣も確かに非自民政権だ。だが、第1党はあくまで自民党で、争点は政治改革だった。保守合同による自民党誕生で成立した「55年体制」は同党が唯一、政権担当能力を持つ意味では続いていた。

政権選択を目指し小選挙区が導入されて5回目の衆院選で、その体制についに終止符が打たれた。投票による政権交代という民主主義本来の機能回復を、私たちは政治の進歩として率直に評価したい。

それにしても、いかになだれ現象が小選挙区で起きやすいとはいえ、政治、社会の構造変化を抜きにこの激変は説明できまい。

自民党支配の源泉は業界・団体への利益配分、官僚による行政運営という強固な統治構造にあった。経済成長が行き詰まり、財政赤字などのひずみが深刻化する中で登場したのが小泉改革路線だ。郵政民営化など「小さな政府」を掲げ05年衆院選に圧勝、党は再生したかに見えた。

しかし、医療、年金、格差や地方の疲弊を通じ国民の生活不安が急速に強まり、党は路線見直しをめぐり迷走した。参院選惨敗に伴う「ねじれ国会」のなか、現職首相が2度も政権を投げ出し、政権担当能力の欠如を露呈した。小泉政治を総括できぬまま解散を引き延ばす麻生政権に、国民の不満は頂点に達した。

しかも、小泉路線の下、業界、農村、地方議員など党を支えた集票マシンは急速に衰え、離反した。2世、3世が幅を利かせ人材も不足した。麻生太郎首相が難局にあたるリーダーの資質を備えていたとは言い難い。制度疲労をきたし、自民党はまさに「壊れて」いたのだ。

一方、政権交代をスローガンとする民主党は「生活重視」「脱官僚」をマニフェストに掲げ、自民党が業界重視、官僚主導から脱せぬ中、争点の提示に成功した。衆院解散から約40日の論戦の結果、有権者が民主党を選択した意味は重い。

だが、多数の議席を得た船出は、逆の意味で危うさをはらむ。期待がふくらむほど、裏切られた時の失望も大きい。数を頼みとする政権運営を戒めるべきことは当然だ。来年夏に参院選が控える。政治の変化の証明を待ったなしに迫られよう。


◇自民は解党的出直しを

政治主導が可能な体制の速やかな構築が必要だ。縦割り省庁が行政を主導し続けた「官僚内閣制」を脱却しないと、官僚操縦に失敗した細川内閣の二の舞いを演じかねない。

あいまいな外交・安保政策も他党との連立協議の過程で明らかにすべきだ。国民は財源対策の説明のほころびなど、リスク承知で1票を投じた。政権担当能力を十分に信用しての圧勝と過信してはならない。

野党となる自民党の役割も重い。そもそも東西冷戦終結やバブル経済が崩壊した時点で存在意義が問い直される中、政権に安住し続けたことが転落を招いた。真剣な総括なくしては、党存続もおぼつかない。

今選挙を民主、自民両党による2大政党政治の実現とみるのは早計だ。だが、選挙の審判で政権の枠組みを決するというルールは定着させねばならない。

経済危機、財政、年金、医療の立て直しなど喫緊の課題は多い。新政権は、国民との約束である公約を実行してみせるしかない。

そして、かじ取りを委ねた有権者にも責任がある。日本政治は、これまで以上に国民が当事者として参加、監視する新時代を迎えたのだ。
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[東京新聞] 歴史の歯車が回った 民主が圧勝 自民落城 (2009年8月31日)

政権が代わる。民意は自公政治の継続を許さず野党の政権を選択した。憲政史上初の出来事だ。歴史の歯車が回り、新たな時代の門口に、私たちは立つ。

つかんでもつかんでも指の間からこぼれる砂。選挙の帰趨(きすう)を左右する、特定の支持政党のない有権者の気まぐれを、かつて中曽根康弘氏が砂に例えたことがある。

とらえどころのない、そんな砂が、明確な意志を持った。「政権を代える」という意志である。

四年前の「郵政民営化か否か」とは次元がかなり異なる。一票に込められた変革への欲求が、ひと塊となって野党に政権の座を用意したのは、憲政史上例がない。


◆「鳩山」「一郎」政権
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長らく「自民王国」と称された保守地盤が軒並み崩れた。自民党の首相経験者や現職閣僚、要職を歴任した大物たちが退場を余儀なくされ、あるいは脅かされた。

メディアの度重なる民主党圧勝予測にも有権者は動じず、古くからの支持者ですら粛々と自民政治に別れを告げた観がある。

政権交代をためらう世間の空気は薄れて、衆院小選挙区制の威力がいよいよ発揮されたのだ。

民主の顔となった鳩山由紀夫代表は「保守とか革新とかの時代ではない」と保守層に呼び掛け、抵抗感を薄らげるのに成功した。

黒子役に徹した小沢一郎氏は代表当時と変わらぬ指揮のさえを見せた。自民政治を地域で支えた農村組織や建設、医療団体にくさびを打ち込んだ。敵陣からの候補の擁立も、えげつなく。

新人候補に“どぶ板”選挙を徹底させた。公明党幹部の選挙区を激戦に持ち込んで、自民の頼む創価学会の動きを封じてもいる。

表の顔と裏の顔が小選挙区効果を倍加させた印象もある。自公に取って代わって衆院を席巻した民主の政権は「鳩山」「一郎」政権と名付けるのがふさわしい。


◆一変する政の風景
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ちなみに鳩山氏の祖父・一郎氏は自民の結党を挟んで一九五四年から二年余、政権を担当した。党の五十年史はこう記している。

「大胆な行政改革構想を提起して官僚政治を排し、政治主導、内閣主導の政策決定の方向に進む意気込みを示した。こうした課題はいつの日にか必ず実現されるべき民主政治の大目標である」

選挙戦で民主党が繰り返し唱えたのが、この「明治以来の官僚主導政治からの脱却」だった。

過去半世紀、歴代自民党政権が口にはしながら怠ってきた「実現されるべき大目標」が、鳩山、小沢両氏を柱とする民主政権に委ねられることになる。

鳩山代表ら党首脳は直ちに政権移行チームを編成し、九月半ばと想定する民主党内閣の発足へ脱・官僚の体制づくりを急ぐ。

霞が関の役人が族議員や天下り予定先の業界と一体でリードしてきた縦割り式の予算配分。その惰性を絶ち、政策の優先順位を政治が決める。国が主、地方は従の中央集権を地域主権へと転換する。いずれも時代の確かな要請だ。

外交・安全保障のありようも旧来の官僚任せを改められるとすれば、政治の風景は一変する。小勢力の社民党、国民新党などは民主との連立を織り込み、共産党も是々非々の協力を表明している。

全国各地の投票所に列をなして民主に大勝利を与えた民意が、政権担当の力量をこの党に認めたのかは怪しい。むしろ「よりましな政権」へ雪崩を打ったと見る方がいいかもしれない。

それでも、自民党が官僚機構とつくりあげた、盤石にも見えた厚い壁はもろくも突き破られた。「日本を壊すな」と劣勢に焦りの声を上げた麻生太郎首相らを顧みることなく、有権者は欲する政権をじかに選んだ。歴史に刻まれる二〇〇九年衆院選であったのだ。

自民は完膚なきまでに打ちのめされた。父から子、親族へと、当たり前のようだった世襲、そして平成の大合併や組織票依存で足腰が弱った党は、時代が必要としなくなったようにも見える。

連立を組んで十年、ともに自民政権の危機を首相のすげ替えで乗り越えてきた公明も代表と幹事長の議席まで失った。協力関係の継続は難しかろう。両党にはたして復元力はあるか。

老後の年金や医療、雇用に募る不安、教育にも及ぶ格差社会の不公平に有権者は怒り、政・官のなれ合い、しがらみの政治との断絶を促した。自公に代わる民主の政権はそれに応える責務がある。


◆政党政治を壊すな
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経験のない数を得た民主は無駄なく巨体を動かす秩序づくりが急務だ。死屍(しし)累々の自民は後継総裁選びと党再建に追われよう。

大量議席に政権側がおごり、落城した側が混迷を続けるなら、政党政治は壊れ、二大政党体制も幻となる。監視が必要だ。有権者の仕事は投票だけで終わらない。
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[朝日新聞] 民主圧勝 政権交代―民意の雪崩を受け止めよ (2009年8月31日)

小選挙区制のすさまじいまでの破壊力である。民意の劇的なうねりのなかで、日本の政治に政権交代という新しいページが開かれた。

それにしても衝撃的な結果だ。小選挙区で自民党の閣僚ら有力者が次々と敗北。麻生首相は総裁辞任の意向を示した。公明党は代表と幹事長が落選した。代わりに続々と勝ち名乗りを上げたのは、政治の舞台ではほとんど無名の民主党の若手や女性候補たちだ。

■100日で足場固めを

うねりの原因ははっきりしている。少子高齢化が象徴する日本社会の構造変化、グローバル化の中での地域経済の疲弊。そうした激しい変化に対応できなかった自民党への不信だ。そして、世界同時不況の中で、社会全体に漂う閉塞(へいそく)感と将来への不安である。

民意は民主党へ雪崩をうった。その激しさは「このままではだめだ」「とにかく政治を変えてみよう」という人々の思いがいかに深いかを物語る。

では、それが民主党政権への信頼となっているかと言えば、答えはノーだろう。朝日新聞の世論調査で、民主党の政策への評価は驚くほど低い。期待半分、不安半分というのが正直なところではあるまいか。

長く野党にあった政党が、いきなり政権の座につく。民主党は政治の意思決定の方法や官僚との関係を大改革するという。だが、すべてを一気に変えるのは難しいし、成果をあせって猛進するのはつまずきのもとだ。

そこで民主党に提案したい。

最初の正念場は、来年度予算編成を終える12月末までだ。9月半ばの政権発足からほぼ100日間。これを政権の足場を固めるための時間と位置づけ、優先順位を明確にして全力で取り組むことだ。

やるべきことは三つある。

第一は、政治と行政を透明化することである。与党になれば、官僚が握る政府の情報が容易に入手できるようになる。それを洗いざらい総点検し、国民に情報を公開してもらいたい。

■賢く豹変する勇気も

天下り、随意契約、官製談合、薬害、そして歴代の自民党政権がひた隠しにしてきた核兵器持ち込みに絡む日米密約……。かつて「消えた年金」を暴いたように、隠されてきたさまざまな闇を徹底的に検証してもらいたい。

第二に、政策を具体化するにあたって、間違った点や足りない点が見つかったら豹変(ひょうへん)の勇気をもつことだ。

マニフェストを誠実に実行するのは大事なことだ。だが民主党が重く受け止めるべきは、その財源について、本紙の世論調査で83%もの人が「不安を感じる」と答えていることだ。高速道路の無料化など、柔軟に見直すべき政策はある。むろん、政策を変えるならその理由を国民にきちんと説明することが絶対条件だ。

急ぐべきは一般会計と特別会計の内容を精査し、ムダな事業や優先度の低い政策を洗い出して、国民に示すことである。その作業なしに説得力のある予算編成は難しい。

鳩山新首相は、9月下旬には国連総会やG20の金融サミットに出席する。これまでの外交政策の何を継続し、何を変えるのか。基本的な方針を速やかに明らかにし、国民と国際社会を安心させる必要がある。

第三に、国家戦略局、行政刷新会議をはじめとする政権の新しい意思決定システムを、人事態勢を含め着実に機能させることだ。

自民党政権の特徴だった政府と党の二元体制に代えて、政策決定を首相官邸主導に一元化する。官僚が政策を積み上げ、政治が追認するというやり方を改め、政治が優先順位を決める。まず来年度の予算編成にそれがどう生かされるかを国民は注視している。

■「二重権力」を排せ

民主党のあまりの圧勝ぶりには、新たな不安を覚える有権者も少なくなかろう。巨大与党に対してチェック機能をだれが果たせるのか。他方、選挙対策を一手に担った小沢一郎前代表の影響力が強まることで、民主党内にあつれきが生じないかも気がかりだ。

93年の政権交代で生まれた細川内閣が、与党を仕切る小沢氏との「二重権力」のなかで短命に終わった歴史を思い出す。それを繰り返してはならない。国民の危惧(きぐ)をぬぐうには、鳩山首相のリーダーシップをはっきりと確立すべきだ。

そのためにも、鳩山氏は来年度予算案に政権担当者としての明確な意思と4年間の行程表を練り込むことだ。

今回の総選挙を、政権交代の可能性が常に開かれた「2009年体制」への第一歩にできるかどうか。それは、2大政党のこれからにかかっている。

自民党の党勢立て直しは容易ではあるまい。それでも、民主党がしくじれば交代できる「政権準備党」の態勢を早く整えることだ。そのためには今回の敗因を正面から見据え、「新しい自民党」へ脱皮する作業が欠かせない。

「とにかく政権交代」の掛け声で巨大政党に膨れあがった民主党は、交代を果たした後の自画像をどう描くかが今日から問われる。広がった支持基盤とどういう距離感をもつのか、外交・安全保障での理念やスタンスは……。「民主党とは何か」をもっと明確に出していかねばならない。

新しくめくられた政治のページを埋めていく作業はこれからだ。
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[読売新聞] 民主党政権実現 変化への期待と重責に応えよ(8月31日付・読売社説) (2009年8月31日)

自民党政治に対する不満と、民主党政権誕生による「変化」への期待が歴史的な政権交代をもたらした。

30日投開票の衆院選で民主党が大勝し、自民党は結党以来の惨敗を喫した。

野党が衆院選で単独過半数を獲得し、政権交代を果たしたのは戦後初めてのことである。

近く召集される予定の特別国会で、首相に指名される民主党の鳩山代表が、国家経営の重責を担うことになる。

◆自民党への失望と飽き◆

このような民意の大変動の要因は、自民党にある。

小泉内閣の市場原理主義的な政策は、「格差社会」を助長し、医療・介護現場の荒廃や地方の疲弊を招いた。

小泉後継の安倍、福田両首相は相次いで政権を投げ出した。

麻生首相は、小泉路線の修正も中途半端なまま、首相としての資質を問われる言動を続けて、失点を重ねた。

この間、自民党は、参院選敗北によって参院第1党の座を失い、従来の支持・業界団体も、自民離れを加速させた。

構造改革路線の行き過ぎ、指導者の責任放棄と力量不足、支持団体の離反、長期政権への失望と飽きが、自民党の歴史的敗北につながったと言えよう。

民主党は、こうした自民党の行き詰まりを批判し、子ども手当や高速道路無料化など家計支援策、多様な候補者を立てる選挙戦術で有権者の不満を吸い上げた。

小泉政権下の前回衆院選では、「郵政民営化」と刺客騒動で、自民党に強い追い風が吹いた。

今回、風向きは一転、「政権交代」を唱えた民主党側に変わり、圧勝への勢いを与えた。この結果、自民党だけでなく、連立与党の公明党も大きな打撃を受けた。

民主党政権に「不安」は感じつつも、一度は政権交代を、との有権者の意識が、それだけ根強かったと見るべきだろう。

しかし、300議席を超す勝利は、必ずしも、民主党への白紙委任を意味するものではない。

◆政権公約の見直しを◆

鳩山新内閣は、政権公約(マニフェスト)で示した工程表に従って、政策を進めることになる。だが、“選挙用”政権公約にこだわるあまり、国民生活を不安定にさせてはならない。

最大の課題は、大不況から立ち直りかけている日本経済を着実な回復軌道に乗せることだ。雇用情勢の悪化を考えれば、切れ目のない景気対策が欠かせない。

来年度予算編成でも、景気浮揚に最大限の配慮が必要だ。

外交・安全保障では、政権交代によって、国際公約を反故(ほご)にすることは許されない。外交の継続性に留意し、日米同盟を堅持しなければならない。

民主党は、参院では単独過半数を持たないことから、社民、国民新両党と連立政権協議に入る。

懸念されるのは、自衛隊の国際平和協力活動など、外交・安保の基本にかかわる政策をめぐって、民主、社民両党間に大きな隔たりがあることだ。

少数党が多数党を振り回すキャスチングボート政治は、弊害が大きい。民主党は、基本政策で合意できなければ、連立を白紙に戻すこともあり得るとの強い決意で、協議に臨むべきだろう。

民主党は、「官僚政治からの脱却」も目標に掲げている。だが、首相直属の「国家戦略局」を設けたり、多数の国会議員を各府省に配置しさえすれば、官僚を動かせるというものではない。

官僚と敵対するのではなく、使いこなす力量が問われる。官僚の信頼を得て初めて、政策の遂行が可能になることを知るべきだ。

自民党は1955年、左右の社会党の統一に対抗する保守合同によって誕生した。

当時のイデオロギー対決はすでになく、かつての社会党も存在しない。今回の自民党の壊滅的な敗北は、自社主軸の「55年体制」の完全な終幕を告げるものだ。

◆自民党は立ち直れるか◆

自民党は、これから野党時代が長くなることを覚悟しなければなるまい。民主党とともに2大政党制の一角を占め続けるには、解党的出直しが必要だ。

93年、自民党は金権腐敗から一時期政権を退いた。その後、社会党や公明党などとの連立で政権を維持してきた。

しかし、自己改革を怠り、結局、有権者の手によって、再出発を余儀なくされた。

今後は、麻生首相に代わる新総裁の下、来年夏の参院選に向け、党の組織や政策、選挙体制など、すべての面にわたり徹底的な改革が迫られる。

説得力のある政策を示し、民主党政権に対する批判勢力として、闘争力を高めねばならない。
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[日経新聞] 社説 変化求め民意は鳩山民主政権に賭けた(8/31)

政権交代の是非が最大の焦点となった第45回衆院選は、民主党が圧勝した。来月中旬にも召集される次期特別国会で鳩山由紀夫民主党代表が新首相に選ばれる。有権者は「変化」に賭け、民主を中心とする新政権に国政のかじ取りをゆだねた。

1955年の結党以来、ほぼ一貫して政権の座にあった自民党は、衆院でも第2党に転落し、下野する。2005年の前回衆院選と立場が逆転する歴史的な惨敗を喫し、議席数は過去最低となった。麻生太郎首相は党総裁を辞任する意向を表明した。自民と連立を組んできた公明党も大幅に議席を減らした。

初の本格的な政権交代

93年に細川非自民連立政権が誕生した時とは異なり、今回の衆院選は第1党と第2党が入れ替わる形の本格的な政権交代である。現行憲法下で選挙による本格的な政権交代は初めてのことだ。

選挙戦は野党の民主が終始、優勢を保つ異例の展開になった。事前の情勢調査で「民主圧勝」の予測が出ていたとはいえ、結果は衝撃的である。小選挙区、比例代表のいずれも民主が自民を圧倒した。小選挙区では民主の新人や元職が自民の大物を破り、続々と勝ち名乗りを上げた。有権者の関心は高く、投票率は前回(67.51%)を上回る見通しだ。

自民は4年前の郵政選挙で圧勝したが、党則を理由に小泉純一郎首相が1年で退任し、後を継いだ安倍晋三、福田康夫両首相はともに1年で政権を投げ出した。07年の参院選で大敗し、参院第1党の座を民主に明け渡した。その後は衆参ねじれ国会の運営に苦しめられた。

昨年9月の総裁選で「選挙の顔」として選ばれた麻生首相は、リーマン・ショックを契機とする経済・金融危機への対応を最優先し、景気対策に取り組んできた。だが自らの失言や政策決定の迷走で内閣支持率は低迷し、党勢回復のきっかけをつかめぬまま、衆院議員の任期満了直前に解散に追い込まれた。

半世紀余り続いた自民党政治への飽きとともに、前回の衆院選以降に顕著となった自民の統治能力の劣化が有権者の離反を招いたといえる。年金の記録漏れ問題などの行政の不祥事が相次いで表面化した。前回選挙では小泉首相の郵政民営化への執念が有権者の共感を呼んだが、小泉氏の退任後は、なし崩し的に構造改革路線の転換が進んだ。

民主は現状に不満を持つ層を広く吸収して、政権交代への期待を高めるのに成功した。マニフェスト(政権公約)では「官僚丸投げの政治」からの転換を掲げ、政治主導を前面に打ち出した。行政刷新会議を新設して予算の無駄を徹底的に排除するなどの、既得権益に切り込もうとする姿勢が支持されたとみられる。

民主は政府と与党の二元的な政策決定の仕組みを改め、内閣の下に一元化する方針を打ち出している。政権の司令塔となる国家戦略局をはじめ法改正が必要な構想も多く、軌道に乗せるための現実的な工程表が要る。統治機構の改革への有権者の期待にこたえるには、鳩山氏が強い指導力を発揮して政権の課題を明確にし、閣僚や副大臣に能力のある政治家を配することが不可欠だ。

新政権は発足後直ちに来年度予算編成に取り組まねばならず、政権公約を実現する力が試される。政権公約には月額2万6000円の子ども手当などの目玉政策を列挙したが、財源の裏づけははっきりしないままだ。鳩山氏は民主の政策に欠けている日本経済の成長戦略や財政再建目標などの中・長期ビジョンについても、所信表明演説などできちんと説明する責任を負っている。

民主は社民、国民新両党との連立政権を目指す方針だ。外交・安全保障政策では社民と大きな溝がある。連立を優先するあまり、政策面で安易な妥協をせぬよう求めたい。

自民は解党的出直しを

来月下旬には国連総会などの重要な外交日程が目白押しだ。それまでに新内閣を発足させなければならず、政権移行の時間は極めて限られている。鳩山氏は記者会見で、首相指名後に閣僚人事を決める考えを示したが、官房長官などの主要閣僚は速やかに内定し、準備を急ぐ必要がある。自民も政権交代が円滑に進むよう協力しなければならない。

かつてない敗北となった自民の今後はいばらの道だろう。党の有力者の落選が相次ぎ、人材難は深刻である。政党助成金が大幅に減るのは避けられず、党財政にも甚大な影響が及ぶのは必至だ。

この機会に党組織や候補者選考方法などを抜本的に見直し、新たな党の姿を探るしかない。麻生氏の後継を選ぶ総裁選で党の再建策を徹底的に議論し、有権者の信頼を取り戻すよう努めるべきだ。政権交代可能な二大政党制を定着させるために、自民は文字通りの「解党的出直し」に取り組む覚悟が求められている。
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[産経新聞] 【主張】民主党政権 現実路線で国益を守れ 保守再生が自民生き残り策 (2009.8.31)

第45回総選挙が投開票され、民主党は選挙区、比例代表ともに自民党を圧倒した。

野党が単独で過半数を占め、政権を樹立するのは戦後初めてだ。自民党主導政治を終焉(しゅうえん)させるという歴史的な転換点になった。13年前の総選挙から導入された小選挙区制による政権交代を可能にする二大政党制が、ようやく機能した意味は大きい。民主党が自民党批判の受け皿になったのである。

問題は、政権交代が目的化し、この国をどうするのかという選択肢がほとんど吟味されぬまま、結論が導かれたことだ。

民主党主導の新たな政権により、これまでの内政・外交の基軸は大きく変わらざるを得ないだろう。自民党が曲がりなりにも担ってきた戦後秩序も変化を余儀なくされる。場合によっては、日本を混乱と混迷の世界に投げ込むことにもなりかねない。政権交代が日本を危うくすることもあるのだ。そうなることは民主党にとっても本意ではないだろう。

国の統治を担う以上、民主党には国益や国民の利益を守る現実路線に踏み込んでほしい。マニフェスト(政権公約)で掲げた政策の修正を伴うケースも出てこようが、1億2千万の日本人の繁栄と安全を守り抜くことをなによりも優先させるべきだ。

≪危ういポピュリズム≫

今回の選択で留意すべきは、民主党の政策が高く評価されたというより、自民党にお灸(きゅう)を据えることに重点が置かれたことだ。たとえば、民主党が掲げた「高速道路の原則無料化」に対し、産経新聞社とFNN(フジニュースネットワーク)の合同世論調査では、反対が65%と賛成(30%)の倍以上となった。

政権を担う民主党の力量に不安があることも事実だ。本来、政権交代のたびに基本政策が大きく変わることは好ましくない。とくに外交・安全保障政策の基軸が揺れ動いては対外的信用を失う。

民主党はこれまで、インド洋での海上自衛隊による補給支援を一時的に撤退させ、在日米軍駐留経費の日本側負担に関する特別協定に反対してきた。小沢一郎前代表の政局至上主義のためだが、「党利党略は水際まで」の原則を否定したのでは信頼は高まらない。

その意味で、維持されるべき日本政治の方向性とは、日米同盟を基軸とした外交・安保政策の継続であり、構造改革の推進により経済や社会に活力を取り戻すことにほかならない。民主党が現実的な判断に立ち、これらを継承することができないなら、何のための政権交代かということになる。

また、国民の政治に対する判断はどうだったのだろう。4年前の総選挙では、小泉純一郎首相が掲げた郵政民営化を圧倒的に支持した。それが今回は、民主党の主張する「政権交代」というキャッチフレーズに熱狂的に共鳴したといえる。

2年前の参院選でも民主党は勝利したが、振り子の激しさは政治を不安定にしかねない。とりわけ、単一イシュー(争点)に白黒をつけることが最大の選択肢となることは、単純明快かもしれないが、ポピュリズム傾倒の危うさがあると認識すべきだろう。

一方で、多くの国民が民主党に閉塞(へいそく)感を払拭(ふっしょく)することを期待したのも間違いない。民主党が公約に掲げた首相直属の国家戦略局は、予算作りだけでなく、国家ビジョンを検討するという。

≪敗北を徹底検証せよ≫

これまで、こうした外交・安保政策の司令塔はなかった。官僚主導から政治主導への成果を出すことができなければ、国民の失望感は大きくなるだろう。

自民党は歴史的な惨敗になった。党幹部や閣僚らは相次いで選挙区で落選・敗退した。解党的出直しへの答えを見いだせないまま選挙に臨み、政権から退場を求められたといえる。自民党政治への不信や行き詰まり感が広がったことに加え、保守政党としての存在意義を十分発揮できなかった点も見過ごせない。

新憲法草案の策定など、民主党に比べれば保守色をみせていたが、集団的自衛権行使の政治決断には至らず、国の守りに関しても不十分さが残った。

公明党との連立下でもイラク自衛隊派遣などの業績は挙げたが、連立の常態化が何をもたらしたかを考えるべきだった。敗北を徹底的に検証してもらいたい。保守政党として民主党への対抗軸を早急に構築し、再生を果たして国民の期待に応える責務がある。
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2009年08月30日

[東京新聞] 一票に魂を込めて 衆院選きょう審判 (2009年8月30日)

衆院選はきょう投開票される。政権交代か否かが焦点。どの政党が信頼に足るのか。政策はどうか。さあ私たちの出番だ。魂を込め一票を投じよう。

歴史的決戦にふさわしい熱いフィナーレは、東京・JR池袋駅東口と西口で行われた。麻生太郎首相が自公政権継続をアピールすれば、鳩山由紀夫民主党代表は明日の日本を変えるよう訴えた。

衆院選は丸四年ぶり。小泉自民党が「郵政民営化」を単一争点に、刺客擁立などで話題をさらった劇場型選挙以来だ。今回、争点は野党・民主党が掲げた「政権交代」の四文字に変わった。

事実上の自民信任選挙から、与野党が入れ替わる可能性がある初の政権選択選挙が実現した形だ。


◆劇場型上回る関心
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前回のような派手な劇場的要素はないが、有権者の関心はいつになく高い。行列ができることも珍しくなかった、期日前投票数の多さがそれを物語っている。

各メディアの世論調査や情勢分析では、公示前から民主優位が伝えられ、選挙戦に入ってもこうした流れは続いた。

世論調査の数字上は、前回自民に雪崩を打った無党派層の多くが民主に流れているようである。

「戦っているのは民主党とではなく、政権交代という意味の分からない言葉とだ」−。自民側からはこんな戸惑いの声も漏れた。

実際、自民候補の街頭演説や支持組織回りでの反応はそれほど悪くなかったという。逆に、聴衆が数えるほどしかいない中、民主候補が演説を続ける光景を何度も目にした。

民主は鳩山代表が気の緩みを戒めるメールを全候補に送付。自民は閣僚らが地元に張り付き、巻き返しを図った。攻守ところを変えた大詰めの光景だった。


◆気迫欠く言葉の力
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政権交代可能な政治システム構築に向け、衆院小選挙区比例代表並立制の導入が決まったのは一九九四年のことだ。

政権党が失政を犯せば、ライバル党が取って代わる。民主主義社会の健全な姿だが、五五年体制下では、この当たり前のことを有権者は体感できなかった。

あれから十五年。自民の麻生首相か、民主の鳩山代表か。投票で首相を実質的に決めるのは初めてだが、日本政治史を刻む選挙にふさわしい論争はできたのか。

例えば経済や社会保障政策。

麻生首相は景気回復へ大規模な財政出動の方針を堅持し、経済成長の実現後、パイを家計に配分するとした。鳩山代表はまずは子ども手当などで家計を直接支援し内需拡大につなげると強調した。手法の違いは明確になった。

しかし、マニフェスト(政権公約)に「あれもこれも」と、個別政策で大盤振る舞いが目立つ一方、有権者に負担を求める「苦い薬」に言及するのは及び腰だった印象が否めない。

歓心を得るためのサービス合戦にすぎないのかどうか。実現性はあるのか。各党のマニフェストをもう一度点検して臨みたい。

少子高齢化、地域格差拡大、地球温暖化…。日本崩壊にもつながりかねない難題への対処は待ったなしだ。安心して暮らせる未来像を提示し、理解と協力を求めるのが政治の責務である。

なのにトップ自らの気迫あふれる言葉が聞こえてこなかったのはどうしたことか。政権選択選挙で党首力がかすんでは困る。

自民・民主決戦に押されがちの公明、共産、社民、国民新などは生き残りをかけて比例代表に重点を置き、多様な民意の受け皿役になろうと奔走した。

ネットやちらしなどで他党の政策をやり玉にあげるネガティブキャンペーンが目立ったのも、今回の特徴だ。しかし、そんな戦術に有権者は冷ややかだった。

政治の側への苦言は、これぐらいにしたい。十分とは言い切れない判断材料ではあるが、いよいよ選択のときだ。

あらためて確認しておこう。

自公に引き続き政権運営を任せるにしても、新たに民主に政権を託すにしても、選択の責任は私たちが負わなければいけないということを−。

過去にも増して、重い一票だ。覚悟を決めて、歴史的投票に臨まなければならない。


◆若者よ投票で声を
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特に投票率の低い二十代には投票所へ足を運んでもらいたい。前回は七十代以上の半数にとどまった。八百兆円を超える莫大(ばくだい)な国の借金のツケを払わされるのは、あなたたちであることを忘れてはいけない。

投票で声を上げよう。積極的な参加意識が支え合い社会の実感にもつながるだろう。

平成生まれの人が選挙権を得て初の総選挙である。「どうせ変わるはずがない」はご法度だ。
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[日経新聞] 社説1 デジタル時代へ通信・放送の垣根なくせ(8/30)

総務省の情報通信審議会が通信と放送に関する法体系を抜本的に改めるよう求める答申をまとめた。日本は放送番組のインターネット配信が欧米に遅れるなど、法体系の複雑さが情報の流通を阻害している。新しいデジタル情報サービスをはぐくむように法体系を見直すべきだ。

通信と放送に関する日本の法律は地上放送や有線放送など設備ごとに定めており、主なもので9本ある。通信と放送を明確に分けるなど縦割りの規制となっており、新技術が登場するたびに法律を追加してきたため、複雑な体系になっている。

答申は来年でちょうど60年を迎える現行法体系を一本化し、通信と放送の垣根を取り払おうという提案だ。規制も縦割りから横割りに改め、放送番組などの「コンテンツ」、地上放送や衛星放送などの「伝送サービス」、通信網などの「伝送設備」といった階層でくくる。総務省はこの答申を受けて、新法の案を来年の通常国会に提出する計画だ。

法案が成立すれば、これまで放送局が一体的に行ってきた番組制作と送信業務をそれぞれ別の会社でできるようになる。地方局が系列を超えて送信設備を共同で利用することも可能だ。放送波の空き部分を使い、放送局が番組を携帯電話などに通信として配信できるようにもなる。

答申内容は規制緩和の流れに沿っており、法案も放送局や通信会社の経営の選択肢を増やす内容になる見通しだ。審議会の議論ではネット配信にも放送と同様の規制をかける案があったが、見送った。当然だ。

海外では米国が1996年の通信法改正で通信と放送の相互参入を認めたことから、メディア業界の再編が加速した。フランスは日本の答申と同様、サービスや伝送設備など階層ごとに規制している。韓国も法体系の一本化を進めており、日本も見直しを急ぐ必要があろう。

通信と放送法の改革論議は小泉政権時代に始まった。地上放送がアナログからデジタルに移行する2011年を「完全デジタル元年」と位置づけ、法体系の見直しを政府与党で合意した。衆院選でどの政党が政権に就いても、今回の答申は基本的に尊重すべきである。

縦割りの法体系見直しという点では、新法と著作権法との調整も必要だ。著作権法は放送番組の再配信を放送とネットで明確に分けている。新法ができても著作権法が壁となっていてはコンテンツの自由な流通は望めない。今後は総務省のほか、経済産業省や文化庁など省庁の壁を超えた改革論議も必要になる。
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[日経新聞] 社説2 原発の安定運転に耐震強化を(8/30)

原子力施設の地震対策の重要性を関係者は改めてかみしめたのではないか。新潟県中越沖地震に被災した東京電力の柏崎刈羽原子力発電所が復旧し始めたと思ったら、中部電力の浜岡原発が駿河湾を震源とする強い地震に見舞われ、しばらく運転停止せざるを得なくなった。

浜岡原発では3―5号機の3基の原発のうち、5号機だけ揺れが特に強かった。揺れの小さかった2基は9月中に点検が終わり早めに復旧できそうだが、5号機は点検が10月末までかかり大きな揺れの原因究明も必要なので、復旧は遅れそうだ。

原発に関しては3年前に耐震指針が改定され、電力会社は新指針に沿って各原発の耐震性の再点検を進めている。東海地震をもろに受ける恐れのある浜岡原発は新指針に沿う耐震補強もされ、今回の地震でも深刻な被害が出たわけではない。それでも東海地震への備えを考えれば、点検は念入りにせざるを得まい。

特に同じ敷地なのに揺れに大きな差の出た原因は徹底究明が必要だろう。柏崎原発も同様の現象が起き、原因が地下構造にあったことが判明している。新耐震指針では地下構造の影響に言及しておらず、指針にこうした点を盛り込まなくていいのか、見極めが必要だ。

耐震指針は地震時に原発の安全性が損なわれないことだけを念頭に置いている。しかし、地震に見舞われる原発が増えれば、復旧を手際よく進める必要性も高まってくる。地震後の復旧指針も整備し、揺れの大きさに応じた点検項目や復旧の手順などの目安を示すべきではないか。

国内の原発は現在、53基。原発は地球温暖化対策として重要性が高まり、新規原発を増やすほか60%前後の稼働率を80%台に回復させるのが当面の目標になっている。稼働率が向上できれば手っ取り早く温暖化ガスの排出削減につなげられるが、地震対策が甘くては実現できまい。

稼働率の低下は過去には事故・トラブルが主因だったが、ここ数年は耐震問題が絡んでいる。地震大国の日本では、どの原発が大地震に見舞われても不思議はない。大地震で安全性が損なわれないだけでなく、しなやかさを持たせて地震後に早期復旧できる原発を目指す必要がある。
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[毎日新聞] 社説:きょう審判 未来を選択する1票に (2009年8月30日)

いよいよ第45回衆院選の投票日がやってきた。夜には大勢が判明する。

解散日から40日間、憲法規定ギリギリいっぱいの実に長い選挙戦だった。初の本格的なマニフェスト選挙として、各党の政策についての比較検討は十分できただろうか。自民党が「責任力」を強調すれば、民主党が「政権交代」で応酬、少子高齢化対策、年金制度改革、農業政策、高速道路料金、雇用対策、日米関係などいくつかの重要政策で対立点が明確になった。公明、共産、社民、国民新党、みんなの党などからもそれぞれの公約が発表された。

後は、我々有権者が彼らの政策発信をどう受け止め、どう判断し、どういう1票を行使するかに移る。「イエス」も「ノー」もすべて我々次第である。より多くの民意の受け皿となった政党が政権を獲得し、マニフェストに沿って政策を実施することになる。

今日本が置かれた環境は、なかなか厳しいものがある。高度成長を誇ってきた経済は、新興国の台頭や地球環境問題で大きな壁にぶち当たっている。皆保険を誇ってきた医療・年金制度も少子高齢化の予想外の進展に持続可能性が問われている。年間3万人を超える自殺者、3人に1人が派遣労働者という雇用格差、シャッター街や限界集落に代表される地方の疲弊……。政治が解決すべき課題は枚挙にいとまがないほどだ。

選挙というのは、有権者が政治に力を与える場である。民意を吹き込まれた政治はそれだけでパワーアップし、長年解決できなかった困難な課題や利害調整の複雑な問題に堂々と取り組むことができる。その環境を自分たちが幸せになるために作り出そうではないか。

この1票の価値をどう見るか。試みに一つの計算をしてみる。あくまでも概算である。国の予算(一般会計)約80兆円を有権者約1億人で割った約80万円。有権者1人当たりの年間負担(=受益)額である。選管から送られてきた投票券の価格とは言えないか。80万円の未来を決めるチケットを使わないのはあまりにももったいない。

特に、若者に言いたい。前回2005年選挙の世代別投票率を見ると、20代が最も低く46・20%で、最も高い60代の83・08%と格段の差がついた。これでいいのだろうか。団塊の世代が自分たちを守るべく投票行為に熱心なのは当然として、雇用や将来不安を抱える若者こそ、自分たちの世代利益を代弁する政党や候補者をより多く国会に送り込む必要があるのではないか。

4年ぶりに訪れた未来を選択する大事業である。ぜひ参加して、悔いなき1票を投じてほしい。
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[毎日新聞] 社説:視点 衆院選 消えた年金 期限決めて決着図れ=論説委員・稲葉康生 (2009年8月30日)

「消えた年金」問題は年金改革のノド元にささった骨のようなものだ。政治の責任で解決の道筋を示し、期限を決めて決着を図るべきだ。

年金記録問題は大きく二つに仕分けされる。一つは97年に基礎年金番号を導入した際に、発生した持ち主不明の「宙に浮いた年金」の問題だ。未統合の記録は06年6月時点で5095万件あり、統合作業を続けているが、1162万件が解明困難として残されている。

民主党はマニフェストに「消えた年金問題の対策を国家プロジェクトと位置づけ、2年間集中的に取り組む」と盛り込んだ。政府・与党は来年から約2000億円の予算で、10年かけて統合作業を行うとしてきたが、自民党はマニフェストに「年金記録問題は来年末をめどに解決する」と書き込んだ。持ち主不明の年金記録の多くは、すでに年金受給年齢に達している。自民、民主党が短期間で解決方針を示したことは当然のことだ。

問題はどう解決するかだ。年金記録を送付して間違いを訂正するよう求めても、死亡者の場合には本人確認ができず、全面解決は難しい。コンピューター記録と8・5億件の紙台帳の照合には、膨大な時間と費用がかかる。しかも、これで全記録が統合できるかは分からない。まずは持ち主不明記録の分析を行い、全面解明が難しいことが確認されれば、政治決断で決着を図ることも必要になろう。

もちろん、これで幕引きはしない。国民が年金記録を点検し、年金相談によって記録の訂正ができる仕組みを残しておくことは言うまでもない。

二つ目の問題は、過去の紙台帳からコンピューターへの入力ミスなどによる「消えた年金」と、厚生年金の改ざんなどによる「消された年金」の存在だ。

総務省の年金記録確認第三者委員会は記録の訂正作業を続けているが、救済認定ができたのは申請者の4割弱だ。退職後、古い給与明細や預金通帳を持っている人は少なく、被害者である高齢者に納付事実の立証責任を負わせることは理屈で理解できても、釈然としない。証拠が乏しくても、本人の申し出に合理性があれば認定ができるよう、認定基準を大幅に見直してもいいのではないか。社保庁職員が関与した年金改ざんのケースは、国の責任で救済すべきだ。

「消えた年金」の解決は時間との闘いでもある。「最後の一人まで」が理想で、それを否定はしない。だが、完全訂正ができないとなれば、大多数が納得できる基準を設け救済を図る政治決断が必要だ。
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[朝日新聞] きょう投票―政治を引き受ける君へ (2009年8月30日)

衆院選の投票日を迎えた。

若い世代にとりわけ大きな意味を持つ選挙である。

ここ十数年、国政選挙での20代の投票率は3割台で低迷してきた。「小泉劇場」といわれた05年の衆院選こそ4割を超えたが、年代別でみると、やはり最低だった。

若者人口そのものが減っているので、投票総数に占める若者票の割合はいっそう細る。2年前の参院選で20、30代が投じた票は全体の2割余りで、60代以上の半分にすぎない。

「選挙なんかで、どうせ何も変わらない」と、多くの若者が政治に背を向けている間に、何が起きたか。

雇用の流動化で急増した非正社員の多くは若い世代だった。世界同時不況の波をまともにかぶって職を失ったのもそうだ。なのに住宅支援や職業訓練などの安全網は穴だらけ。はい上がる手がかりがなかなかつかめない。

日本社会のいろいろなしわ寄せが、若者たちに押し寄せている。後期高齢者医療制度をめぐる論争は、世代間の負担をめぐる問題をあらわにした。

増えてゆくお年寄りの社会保障を、少ない現役世代が支えなければならない。景気対策も加わって国の借金は膨らみ、ツケは将来の世代に回ってくる。若者の未来がかかっているのだ。

時代を覆う重たい閉塞(へいそく)感の中で、結婚や出産をためらう人が増えている。自ら命を絶った10〜30代の人が昨年、増加したことも気がかりだ。

前の世代が敷いたレールに乗っていればよかった時代は、とうに過ぎた。日本はあらゆるシステムを作り直さなければならないところまで来ている。

どんな未来を目指すのか、世代間の利害を調和させ、負担をどう分かち合うのか。誰よりも切迫感を持って考えられるのは若者だろう。政治が決めることの影響を最も長く受ける世代の声が、政策決定の過程にもっと反映されるべきだ。

そんな思いを共有する若者が動き始めているのは、心強い。メールなどを通じて20代の投票率向上を呼びかける大学生グループ「ivote(アイヴォート)」の原田謙介さん(23)は、「政治にモノを言いたい同世代は増えている。20代の少なくとも過半数が投票に行くようにしたい」と話す。

政権公約には数々の施策が並ぶ。その実行には、私たちの負担が伴うことを忘れてはならない。

あすからは、自分たちが選んだ政治家に任せきりにせず、監視し、注文をつけ、次の選択に向けて見る目を磨き続けよう。それこそが、政治を引き受けるということだ。

期日前投票の列の中に多くの若者の姿を見た。若者が大挙してきょう、投票所にやってくる。そんな光景を思い描く。
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[朝日新聞] 失業率最悪―デフレとの連鎖を止めよ (2009年8月30日)

世界同時不況の発端となった「リーマン・ショック」から1年近くたつが、その余波はいまなお日本列島を覆っている。

衝撃の第一波は生産と輸出の縮小だった。それらがともかく下げ止まったいまも、止まらないのが雇用の悪化だ。7月の完全失業率は過去最悪の5.7%を記録した。失業者は前年同月比で103万人も増えた。この半年で1.6ポイント、1カ月で0.3ポイントという予想を超える急激なペースだ。

今春の経済危機対策で「失業率を5.5%以下に抑える」としていた政府の阻止線は突破されてしまった。

しかも、内閣府の推計では、企業内の余剰人員は600万人にのぼる。このため失業率は6%台にのるとの見方が民間エコノミストの間では有力だ。

深刻なのは、家計の担い手の失業が広がっていることだ。完全失業者360万人のうち単身を除く世帯主は、90万人で、4分の1を占める。前年同月より3割も増えた。

正社員で職を失う人も増えている。雇用の先行きを左右する有効求人倍率でも正社員は0.24倍で、全体を大きく下回っている。

雇用と並んで衝撃を広げているのは、物価の下落と消費の不振だ。生鮮品を除く7月の消費者物価指数は前年同月比で2.2%も下落し、過去最大の落ち込みだった。小売りの一線では、モノが売れないので値下げが値下げを呼ぶ競争が広がっている。

7月の家計調査では消費支出が前年同月比2%減少した。環境車への補助金や家電でのエコポイント効果で横ばいできたが、夏のボーナスの不振や、天候不順に直撃されたかたちだ。

このままでは、失業の増加が個人消費を低迷させ、物価の下落を招いて企業収益をさらに悪くし、それがまた投資や雇用の削減を生む、というデフレの悪循環に陥りかねない。

政府の雇用調整助成金は250万人の雇用を支え、失業者が増えるのを抑えている。それでもこの惨状だ。社会に出ようとする若者たちは、厳しい就職難にあえいでいる。

失業に陥る人々を救う当面の措置と同時に、なんとしても、雇用増につながる新しい産業を育て、需要を作り出さねばならない。

たとえば、高齢社会の柱となりつつある医療・福祉の分野では人手不足が目立つ。とくに介護事業では、給料が安いために職員が定着しにくい。職員の給料を引き上げるために、新たな税金の投入や介護保険料の引き上げといった思い切った政策を打ち出す政治の決断が欠かせない。

雇用と産業の創出は短期間にはできない。だからこそ、きょうの審判で生まれる政権は、そのための本格的な戦略を、早急に練る責任がある。
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[読売新聞] きょう投票 1票が日本の進路を決める(8月30日付・読売社説) (2009年8月30日)

日本の舵(かじ)取りを委ねるのにふさわしい政党はどこか、候補者は誰か。有権者の1票が日本の進路を左右する。

きょう30日、第45回衆院選が投票日を迎えた。

自民、公明両党の現政権の継続か、民主党を基軸とする新政権の誕生か。今回の選挙戦では、各政党の実績、政策の評価に加えて、選挙後の政権の選択が大きな焦点となった。

自民党にとっては、強い逆風の下の選挙戦だった。

小泉政権下の前回衆院選での圧勝の後、安倍、福田、麻生と首相が3度も交代し、「政権たらい回し」の批判は根強かった。

麻生首相も、昨年9月の政権発足以来、定額給付金の性格付けを始めとして、節目で発言のぶれや優柔不断さを露呈し、そのたびに自民党の支持率を押し下げた。

民主党に対しても、保守系から旧社会党出身までを党内に抱えた「寄り合い所帯」に起因する統治能力への疑問や、安全保障政策で開きのある社民党との連立を志向することへの不安などが、指摘された。

有権者にとっては、自公政権か民主基軸政権かの積極的な選択というより、「自民党への不満か、民主党への不安か」の消極的な選択でしかない選挙だという指摘もある。

しかし、衆院選の結果は、これからの日本の進路に直結する。不満であるとか、不安であるとかいった気分や、一時のムードで、決めていいはずがあるまい。

有権者が投票の第一の判断基準とすべきは、やはり政策だ。

◆政策を冷静に見極めよ◆

各政党とも、衆院議員の任期である4年間に実施する政策を網羅した政権公約(マニフェスト)を掲げて選挙に臨んだ。

中でも、少子高齢化が進む中で、有権者の関心が高い年金・医療、子育て・教育などの政策や、その財源の手当てが、主要な争点に浮上した。

自民党は、社会保障の安定財源として、消費税率引き上げを含む税制抜本改革に取り組むと強調した。引き上げの時期は、年率2%の経済成長が達成されてからとしたが、明示は避けた。

民主党は、「子ども手当」など多くの直接給付型の家計支援策を掲げた。財源は、不要不急な事業の中止など徹底した歳出削減で捻出(ねんしゅつ)し、消費税率は次の衆院選まで据え置くとした。

インド洋における海上自衛隊の給油活動を継続するか否かなど、外交・安全保障政策でも各党の主張の違いは顕著だ。

どの主張に説得力があるか、冷静に見極めることが大事だ。有権者には、各党の政策を十分に吟味してもらいたい。

◆党首力はどちらに軍配◆

政策の選択と同様に重要なのが、党首の選択である。

自公両党が過半数を確保すれば麻生首相が続投する。民主党など野党が過半数を奪えば、「鳩山首相」が誕生するだろう。

麻生首相は、民主党の外交・安保政策が曖昧(あいまい)であるなどと批判して、自民党こそ「責任力」ある政党だと主張した。鳩山代表は、自民党政権の下では官僚主導の政治が続くとして、「国民本位」の政権への交代を訴えた。

途中で衆院解散や首相交代がなければ、向こう4年間、この国の舵取りを担う指導者を選ぶ選挙である。両党首が選挙戦を通じて、どのような発言をしたかも思い起こしたい。

比例選は投票用紙に政党名を書き、小選挙区選では候補者名だ。各候補者の政治家としての資質も、大事な判断の要素だ。

解散まで現職議員だった候補者であれば、これまでの実績や国会での活動ぶりが、一つの手がかりとなろう。新人候補の場合も、選挙公報などから浮かび上がる政見に目を凝らしたい。

民主政治では国民が主権者だ。有権者は、各党の政策、党首の力量、各候補の識見を総合的に判断し、自らの1票を責任をもって投じてほしい。

◆若者こそ選挙に関心を◆

今回の選挙では、期日前投票をした人が飛躍的に増えた。選挙に対する有権者の関心の高さの表れだろう。読売新聞の全国世論調査でも、「必ず投票に行く」と答えた人は79%に上った。

だが、20歳代に限ると、56%にとどまる。若い世代が「投票しても政治は変わらない」などとあきらめているのだとしたら、きわめて残念だ。

今回の選挙でも重要な論点となった社会保障制度改革や雇用対策などは、いずれも無関心ではいられない問題だ。

若い人たちには、自分たちの将来を自ら選び取る気持ちで、投票所に足を向けてもらいたい。
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[産経新聞] 【主張】新型ワクチン 安全性の確認重視したい (2009.8.30)

新型インフルエンザの流行が国内で拡大を続けている。国立感染症研究所によると、全国約5000の定点観測医療機関の報告に基づく17〜23日の1週間の推計感染者数は15万人にのぼる。

沖縄はすでに大きな流行の継続を示す「警報レベル」に達しているが、他の地域は「注意報」段階で、本格的な流行拡大はこれからだ。各地域の実情を踏まえ、対策に力を入れる必要がある。

厚生労働省では、ワクチン接種の優先順位や輸入に関する検討も進められている。

舛添要一厚労相は26日に開いた有識者との意見交換会で、新型インフルエンザのワクチンについて(1)5300万人分を確保したい(2)国産ワクチンの年内製造量は1300万〜1700万人分にとどまる(3)不足分は輸入交渉を進めている−との考え方を示した。

5300万人分の内訳は、ぜんそくなどの持病を持つ人約1000万人、妊婦約100万人、乳幼児600万人、小中校生約1400万人、65歳以上の高齢者約2100万人、医療従事者約100万人−としている。

今回の新型インフルエンザは、世界中の誰もワクチンを接種していない現状でも、かかった人の大多数が1週間ほどで回復する。ただし、重症化のリスクを抱える人もいるので、そうした人たちへの感染の機会を減らし、死亡を防いでいくことが大切だ。

重症化防止を優先すると、予防接種が急がれるのは、持病を持つ人、妊婦、乳幼児で、これに医療従事者を加えても計約1800万人だ。中にはワクチン接種を望まない人もいるので、国産の1300万〜1700万人分で年内は何とか対応できるのではないか。

輸入ワクチンには、副作用の不安も指摘される。輸入に踏み切る場合でも、安全性に焦点をあてた臨床試験を国内で行うべきだ。

ワクチン接種の開始は10月下旬なので、冬の流行には備えられても、現在の流行の拡大には間に合わない。ワクチンは重要な対策ではあるが、すべてではないこともこの機会に認識しておきたい。

重症化は早期に治療を提供すれば防げることが多いという。その意味でも特定の医療機関に一度に患者が集中して混乱するような事態は避けたい。とりわけ休日や夜間の医療体制については、予想される患者の増加に備えて、充実を急ぐ必要がある。
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[産経新聞] 【主張】イラク油田権益 日本の国際貢献が効いた (2009.8.30)

日本企業がイラク南部の「ナシリヤ油田」の開発権益を獲得する見通しになった。新日石と国際石油開発帝石、日揮の3社連合が開発提案していた鉱区で最終的にイタリア企業に競り勝って、イラク政府との基本合意に達した。

イラクは世界3位の石油埋蔵量を誇る。原油調達先の多様化だけでなく、エネルギー安全保障の観点からも重要な成果といえる。久々の大型自主開発油田として期待したい。

イラク油田が外資に開放されるのは37年ぶりとなる。イラク政府にとって石油収入は経済再建にも欠かせないが、自前で油田開発するには資金や技術がまだ不十分なため、開発の権利を外資に開放することを決めた。

日本政府はイラク復興に無償・有償合わせて50億ドルの資金供与を決め、国際協力機構(JICA)が製油所や港湾などのインフラ支援にあたっている。自衛隊も昨年末まで5年間にわたり陸自、空自による人道復興支援で着実な実績を残した。シャハリスタニ・イラク石油相もこれらの活動に感謝を表明した。今回の権益獲得の背景には、こうした日本の国際貢献があることを忘れてはなるまい。

ナシリヤ油田は、日本の1日の国内消費量の約12%に相当する日量60万バレルの原油生産が可能とされ、日本企業が中心となって開発する油田の中では過去最大規模となる。日本政府は、2030年をめどに自主開発油田産の比率を現在の約19%から40%まで引き上げる目標を掲げている。

新興国や途上国の資源ナショナリズムの高まりで、市場は不安定化している。エネルギー有事の場合も考えれば、日本にとって安定的な原油供給を可能にする自主開発油田のメリットは大きい。

また、自主開発油田は相対で価格を決めることができるため、価格変動リスクを緩和できる。現在日本の輸入原油の大半は市場から購入されており、その時々の市場価格の影響を受ける。中国やインドなどの新興国の経済発展や原油市場への投機資金の流入によって昨年、原油が高騰したことは記憶に新しい。

イラク情勢は現政権下で民主化に向かっているが、治安の安定や政府の人材不足、法整備などで国際社会の支援継続を求めている。日本もこれに応じて、インフラ整備や人材育成を含む民主化支援を続けていくべきだ。
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2009年08月29日

[東京新聞] 失業率最悪 次期政権で抜本対策を (2009年8月29日)

景気に明るさが出てきたとはいえ雇用はまだ底が見えない。近く誕生する次期政権は当面の失業救済や安全網強化にとどまらず、労働政策全体を見直して雇用の安定に取り組まなければならない。

東京・西新宿にあるハローワーク新宿には毎日約三千人が詰め掛ける。離職票を提出して失業給付の手続きをする中年男性や職業訓練を申し込む女性、就職で相談員と話し込む若者など誰もが厳しい表情だ。職員は「殺気を感じる」という。

こうした光景は愛知県はじめ全国に広がっている。七月の完全失業率は5・7%と過去最悪となった。一方、有効求人倍率は〇・四二倍と最低記録を更新中である。九月末までに失職する派遣やパート社員など非正規雇用労働者も二十三万二千人とさらに増えた。

労働力調査によると三百万人を超える失業者の半分以上が非正規労働者だ。職業経験や技能に乏しい非正規の場合、再就職先は簡単に見つからない。今後、大型倒産が発生したり業績不振の流通・中小企業などが人減らしを始めれば失業者はさらに増加しよう。

政府の緊急対策は大半が現行制度を拡充したものだ。雇用調整助成金を拡充して当面の失業急増を防ぐ。総額七千億円の緊急人材育成・就職支援基金を創設し生活資金付きの職業訓練を行う。これは新制度だが三年間限定である。

総選挙後、次期政権は早急に雇用安定策を構築しなければならない。緊急対策の補強だけでなく政策全体の大胆な転換が必要だ。

第一は非正規対策である。雇用者全体の三割以上を占めるパートや派遣などの非正規労働者の賃金と雇用を安定させる。とくに大量失業の一因となっている労働者派遣制度は日雇い・製造業の原則禁止など規制強化に踏み切る。労働者保護に軸足を置くべきだ。

第二が若年者雇用のてこ入れだ。不況期こそ人材獲得の好機である。企業側は来年春の新卒者採用だけでなく、フリーターやニート(無業者)も含めた通年採用を積極的に行ってもらいたい。長期安定雇用を約束することこそ経営者の責任だ。不況だからといって安易な雇用調整を行うことは許されない。

最後は地域差の是正である。失業率も求人倍率も地方は厳しい。新職場の創造が不可欠だが、そのためには介護・医療、観光、農林漁業などへ労働力を誘導させるための施策が不可欠だ。地方自治体に知恵が求められている。
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[東京新聞] 09年衆院選 環境も家計も考えよう  (2009年8月29日)

温暖化対策は待ったなしだという。関心も高まった。しかし、生活者にも何らかの負担を伴うためか、選挙戦での主張は弱かった。今や、環境はちゃんと票になる。未来を考え、票を投じたい。

京都議定書の次の温室効果ガス削減目標を決めるコペンハーゲン会議が年末に迫り、その前提として、麻生太郎首相は六月に自ら、二〇二〇年までに温室効果ガスの排出量を〇五年比15%(一九九〇年比8%)削減という中期目標を発表した。地球の未来にかかわる重要な節目を前に、それをどう実現するかを競う環境政策が、大きな争点になるはずだった。

各党のマニフェストにも、中期目標の数値が並んでいる。

自民は政府の発表通りだ。そのために、太陽光発電の導入量を二〇年までに二十倍に引き上げるという。同じ与党の公明は、九〇年比25%と自民よりも踏み込んだ。共産、社民はともに同30%とさらに上を行く。政府目標が、科学的知見に基づく国際的な要求水準に達しないという批判を受けての上積みである。

だが、選挙戦に入って各党の主張を聞く限り、温暖化対策の優先順位は低い。高い削減目標を掲げる民主でさえ、明らかに矛盾する高速道路の無料化の方に、力点を置いているようにも見える。

例えば、風力なども含めた自然エネルギーの普及のために、電力会社に高価な買い取りを義務付ければ、その費用は電気料金の値上げになって家計に跳ね返る。

環境対策、特に温暖化対策は経済成長の妨げになるという不安は、産業界だけでなく、国民の間にも根強くある。政権交代が最大の争点になり、バラマキ合戦の様相を呈する展開の中では、強く主張しにくいらしい。

しかし、環境、特に温暖化対策こそ“未来への種まき”だ。今適切な対策をとらないと、将来の負担は計り知れないものになる。エコ市場への先行投資が景気、雇用対策に有効なのは、オバマ米大統領のグリーンニューディール政策を持ち出すまでもない。

環境は票にならないといわれてきた。しかし、世界自然保護基金(WWF)や気候ネットワークなどの環境団体が、七月中旬から下旬にかけて、二十歳以上を対象に無作為抽出で実施した調査では、温暖化対策に積極的な候補に投票したいという人が、76%にも上っている。有権者は目の前だけを見ているわけではない。
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[朝日新聞] 総選挙あす投票―未来を選ぶ夏の結びに (2009年8月29日)

兄は理想主義の政治学者。弟は有能な官僚。ともに日本をより良くしたいと思っていますが、考え方が違い、顔を合わせれば論争が始まります。

二人はどろぼうに遭いました。犯人は働き者だが貧乏な娘。勉強好きで病気の弟を、進学させ、病院に通わせるお金がほしかったのです。

すぐに反省し、盗んだ物を返しに来た娘を、官僚の弟は「国家とは法律の網。その網を破ろうとしたことは償わなくては」と警察に引き渡そうとします。そして、「一方で、国家は救いの網も用意している。安心してこの網に体を預けなさい」と諭します。

学者の兄は反論します。「貧しい子が学校に行けず、医者にかかれないのは、なぜか。その『なぜ』をしっかり受け止めていない法の網に身を預けられるはずがない。あらゆる『なぜ』を議会に集めなければならない」

二人は旅先で、ある兄妹に会います。生きる苦労を重ねた末に再会した兄妹は、お互いの生活を思って歌います。

「三度のごはんきちんとたべて 火の用心 元気で生きよう きっとね」

口論ばかりの二人も、この時は意見が一致しました。「人間の本当の願いはここにある」と。



これは井上ひさしさんが03年に書いた「兄おとうと」というお芝居です。大正デモクラシーを主唱した吉野作造と弟の信次がモデルです。安全できちんとした生活を願う人々の思いを政治が受け止めなくては。劇中の兄弟の実感は、いまに通じるものでしょう。

今年初めに芥川賞をとった津村記久子さんの小説「ポトスライムの舟」の主人公は29歳の女性です。

〈生きるために薄給を稼いで、小銭で生命を維持している〉契約社員。ある日、NGO主催の世界一周船旅の費用163万円が、働いている工場での年収とほぼ同じであると気づき、その額をためようと思い立ちます。

10円単位のお金の出入りにこだわって生活する主人公は、自分や周囲に過剰な期待を抱きません。その姿からは、堅実さと、地に足の着いた希望の感覚が伝わります。

作者の津村さんは31歳の会社員です。選挙についてこう語っています。

〈一票には、「もうちょっとマシにしてください」という願いを込める〉



あしたは投票日です。

民主党が優勢で「政権交代」が実現しそうです。長く続いた自民党支配の政治を変えたい、という有権者の思いが、風を起こしているようです。

ただ、この風、強い割には、あまり熱くはなさそうです。

朝日新聞社の世論調査によると、政権交代で政治が「良い方向に向かう」という人は25%です。54%は「変わらない」と考えています。子ども手当、高速道路無料化といった民主党の看板政策もあまり評価されていません。

興味深い数字があります。

「自民、民主の2大政党以外の政党にも勢力を伸ばしてほしい」という人が54%もいるのです。民主党に投票するという人でも58%に上ります。

政権交代を望む。でも、それだけでは……。政権が暴走しそうな時の歯止め役になったり、市井の小さな声を丁寧にすくい上げたりする勢力も必要だ。そんな気持ちの表れでしょうか。

前回の総選挙では、当時の小泉首相が「郵政民営化、賛成か、反対か」と単純に、それゆえに歯切れよく主張して、自民党に大勝をもたらしました。

あれから4年。「郵政民営化」のあとに続いていたはずの「でも、それだけでは……」がかき消えてしまったことを、苦く思い起こしている人が少なくないのではないでしょうか。

敵味方をわかりやすく色分けする小泉さんの手法を、メディアが増幅して興奮状態を引き起こした前回の総選挙は「小泉劇場」といわれました。

劇場は、熱狂をあおることもありますが、この世界を日常とは少し違ったものとして見せたり、ものごとを深く考えさせたりする場でもあります。そこには、わかりやすいだけではない、繊細に、相対的に人間や世界を語る言葉がたくさん生きています。

シェークスピアの「ハムレット」を例にとりましょう。ハムレットは文武に優れた王子ですが、内省的で、行動することに慎重です。

一番有名なせりふは「To be, or not to be, that is the question」という独白。小田島雄志さんは、こう訳しています。

「このままでいいのか、いけないのか、それが問題だ」

深い自問です。現状は肯定すべきか。否定して変えるべきか。変えることにすぐ飛びつくのではなく、変えた先のことにも考えをめぐらす。常に両面から見つめようとする言葉です。



さて、最後にもう一度、吉野作造に登場してもらいましょう。彼が大正13年に発表した文章の一節です。

〈総選挙だからとて俄(にわ)かに馬鹿騒ぎをするのは不必要のことだ。本当の憲政の要求するところは選挙だからとて少しも騒がず、国民が平常と変らず各々(おのおの)その業にいそしむということである。……憲政の道徳的の重みは決して騒々しいところからは生まれない。冷静であればある程、選挙民の政界に対する威力は増すものである〉
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[日経新聞] 社説2 投票率7割へ若者も参加を(8/29)

30日に投開票日を迎える第45回衆院選は政権交代がかかり、有権者の関心も総じて高い。投票率70%台を回復できるかが一つの焦点となっている。そのためには若い世代の積極的な政治参加が欠かせない。

日本経済新聞社の世論調査によると、今回の衆院選の投票に「必ず行く」が74%、「なるべく行くつもり」が21%に達し、前回2005年9月の「郵政選挙」並みとなった。有権者の関心の高まりを実際の投票に結びつける必要がある。

衆院選の投票率は戦後長く70%を超える水準で推移してきた。しかし近年は60%前後まで落ち込み、20歳〜30歳代の投票率が他の世代に比べて格段に低い特徴が見られる。

05年は投票率が67.51%まで持ち直した。ただ60歳代の投票率は83.08%だったのに対し、20歳代は46.20%、30歳代は59.79%にとどまった。こうした傾向は「高齢者に手厚く、若年層に冷たい」といわれる政策決定のゆがみの一因になっているとの見方もある。

少子高齢化で有権者に占める20歳〜30歳代の割合はただでさえ減りつつある。就業や子育てなど若い世代とのかかわりが深い政策テーマに政治家の目を向けさせるには、実際の投票行動で示すしかない。

年金などの制度改革の遅れは受給水準の世代間格差を大きくする。財政状況の一段の悪化は将来世代へのツケ回しを意味する。国と地方の長期債務残高は09年度末で約816兆円に達し、国内総生産(GDP)の1.7倍にもなる見通しだ。

全国の学生団体や特定非営利活動法人(NPO法人)などは選挙期間中に、若者に積極的な政治参加を呼びかけるキャンペーンを展開した。「投票に行かないと若者の声が政治に反映されない」との叫びは、残念ながら今の政治の現実である。

積極的に支持したい政党や候補者を見つけるのは難しいかもしれない。だが、少しでも期待できる政党、候補者に一票を投じることが、より良い政治を実現する一歩になる。

各種の世論調査では民主党の大幅な議席増が予想されているが、わずかな差で競り合っている選挙区も少なくない。投票所に足を運び、「真夏の決戦」に参加しよう。
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