2009年07月12日

[産経新聞] 【主張】サイバー攻撃 国際協力で防衛策強化を (2009.7.12)

米国と韓国で政府機関などのウェブサイトが、ウイルスのばらまきからコンピューター機能をまひさせるサイバー攻撃を相次いで受けた。

幸い情報の流出やデータベースへの不正侵入など深刻な被害の報告はなく、攻撃も下火に向かっている。だが攻撃の規模や範囲から国家テロ的な犯行意図を指摘する声もあり、両国政府は引き続き警戒を怠らないよう呼びかけている。

電力や水道など生活基盤の多くがネットワーク化された現代は、サイバー攻撃が深刻な社会の攪乱(かくらん)要因となる。日本も対岸の火事とみることなく、米韓との緊密な情報交換を進め、今後の防衛策強化に生かしてもらいたい。

米国では国務省、財務省、国防総省など主要官庁のサイトが軒並み狙われ、民間でも証券取引所や有力紙のサイトが攻撃の対象となった。韓国も青瓦台(大統領府)を含む政府機関をはじめ、大手銀行などが標的にされた。

海外のサーバー経由で不特定多数のパソコンにウイルスを送り込み、そこから自動的に大量のデータをサイトに送りつけていた。手口は米韓とも酷似しており、攻撃の発信地は未確認ではあるが、米韓の当局者は北朝鮮の関与も示唆している。

サイバー攻撃の脅威は、社会のネットワーク化が世界規模で進むにつれ、今後ますます増大するとみられている。

米国では、サイバー攻撃担当の調整官をホワイトハウスに常駐させ、軍にもサイバー防衛の特殊部隊を新設するという。

日本でも4年前から内閣府に情報セキュリティーセンターが設置されている。監視体制の強化に向け、今後5年間で現在約2900台ある中央省庁のサーバー数を半減させるほか、各省庁ばらばらだったセキュリティー政策の一元化や担当者の認識徹底、技術レベルの向上を進める方針だ。

だが、水際防衛に過敏となるあまり、情報ネットへのアクセスが過度に制限されるようでは本末転倒である。攻撃された時に、いかに被害を最小限に食い止め、早期に復旧させるか、「事後」の管理・運用体制強化こそが現実策として模索されるべきだろう。

世界を縦横に駆けめぐるネット犯罪は、どこから仕掛けられるかの予想が難しい。各国の関係機関が緊密に連絡を取り合う国際協力の推進も重要な意味を持つ。
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[産経新聞] 【主張】貨物検査法 対北監視網構築を担おう (2009.7.12)

北朝鮮に出入りする船舶を検査する北朝鮮貨物検査特別措置法案が、衆院で審議中だ。

国連安全保障理事会の対北制裁決議を受け、国際社会とともに禁輸物資の輸送を阻止するため必要不可欠な法律だ。衆院解散問題などを控えて国会情勢は流動的だが、与野党は党派を超えて早期成立に動くべきである。

ラクイラ・サミットの主要8カ国(G8)首脳宣言でも、北の核実験や弾道ミサイル発射に対し、制裁の完全履行を国際社会に求める内容が盛り込まれた。ミサイル発射などは日本にとって直接かつ深刻な脅威だ。当事者として、制裁を率先して履行すべき立場にあることを忘れてはなるまい。

法案には、北朝鮮が日本や国際社会に与えている「脅威の除去」という目的が明記された。核・ミサイル関連物資や、その他の武器などを「北朝鮮特定貨物」と呼び、対象船舶がそのような貨物を積んでいると判断すれば、検査を行い物資の提出を命令する。海上での検査ができない場合、近くの適切な港で検査するため、船舶を誘導することもできる。

検査を行う主体は海上保安庁とされ、港や空港では税関があたる。海上自衛隊は直接的には検査を行わない。だが、公海上で外国船舶に検査を行う場合は、船舶が属する旗国の同意が必要なことから、北朝鮮が同意せず、反発する事態も予想される。

法案は、海保だけでは対応できない「特別の事情がある場合」には自衛隊が密接に協力することを定めている。高い抑止力を持つ海自の護衛艦によって海保の巡視船を警備するなど、政府は万全の措置を講じたうえで検査活動に臨む必要がある。

民主党の鳩山由紀夫代表は、法案について「それほど反対する立場ではない」と述べている。党内論議でもとくに反対論はなかったという。法案成立に向けて、早急に対応を明確にすべきだ。

兵器類運搬の疑いがあるとして米軍が追跡していた北朝鮮の貨物船「カンナム号」は、進路を反転して自国へ戻った。米海軍のラフェッド作戦部長は「国際社会の結束」の成果だと評価した。安保理決議の効果が示された格好だ。

政府内には、日本が実際に貨物検査を行う事態は考えにくいとして法案作成への慎重論もあったという。北船舶を監視する網の目の構築は日本の責務である。
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[朝日新聞] 臓器移植法案―参議院らしさを見たい (2009年7月12日)

日本では閉ざされている子どもの臓器移植にどう道を開くのか。施行から12年たつ臓器移植法の改正案の採決が、参議院本会議で13日に行われる。

厚生労働委員会から本会議への中間報告が行われたのはまだ一昨日だ。それがあす採決される。衆議院の本会議採決は、委員会の中間報告から9日後だった。一人ひとりの議員が考えるための時間は十分だろうか。

民主党は13日にも内閣不信任案の提出を検討しており、その後の混乱を避けるために採決が前倒しされた。

参院で審議中の改正案には3案あり、そのうち、衆院で可決されたA案を修正する案については、委員会で1時間半しか議論されていない。

時間をかければよいわけではないが、何と言っても、人の死を扱う法律である。参院には、衆院で積み残された課題にも十分な議論をして答えを出すことが期待されていた。

A案は、本人の意思が不明の場合は家族の同意で臓器の摘出ができる。15歳未満の子どもの移植に道を開く一方、本人の書面による意思表示を必要とする現行法の枠組みを一変させる。

この案では、臓器提供に限って脳死を人の死とするという現行法の規定が削除されている。死の範囲が広がるおそれがあるといった批判が相次ぎ、衆院での採決直前、「臓器移植法である以上、脳死を死とするのは臓器提供のときだけ」との説明が示された。

どんな場合に脳死を人の死とするのか。肝心の点があいまいなままA案は可決され、参院に送られた。

参院委員会では審議の終了間際になって、「臓器提供時に限ることを明確にする」との理由で削除部分を復活させる修正案が出た。だが、A案とその修正案で死の定義はどう違うのか、提案者の間でも見解は食い違った。依然として、肝心の点があいまいだ。

両案に共通する問題についての議論も深まったとはいえない。現行法同様、臓器提供の場合だけ脳死が人の死とするなら、本人の意思表示はなくてもいいのか。親族への優先提供を認めるのは、移植医療の公平性を損なわないか、といった点だ。

もう一つの案は、子どもの脳死問題を1年かけて検討する臨時調査会の設置を求める。いわば仕切り直しだ。

作家の柳田邦男氏ら、参院に出席した参考人からは、提供側への配慮の重要性など多くの論点が提起された。それを受けた法案審議の深まりを期待した人も多かったはずだ。

参院は97年、衆院から送られた臓器移植法案を現行法の形に抜本修正して存在感を示した歴史がある。

再考の府としての参院の責任はきわめて重い。法案の問題点をしっかり見据え、多くの国民が納得できる答えを出してほしい。
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[朝日新聞] ユドヨノ再選―G20の一員への深い期待 (2009年7月12日)

インドネシアの大統領選で、現職のユドヨノ氏が再選を確実にした。向こう5年、国政を担当することになる。

直接選挙の大統領選は2回目だ。スハルト独裁政権の崩壊から11年あまりをへて、世界最大のイスラム人口を抱える国の民主主義が、安定期に入りつつあることを歓迎したい。

インドネシアでは、米国の9・11テロの影響も受け、大規模なテロ事件が頻発した。イスラム教徒とキリスト教徒の衝突も各地で起きた。アチェの独立紛争や大地震、津波災害も相次ぎ、1万7千以上の島と約300の民族から成る国は揺らいできた。

独裁時代の非効率な制度が残り、経済も東南アジア諸国連合(ASEAN)の中でシンガポールやタイ、マレーシアに差をつけられてきた。

ユドヨノ氏への厚い支持は、治安と経済を安定させたことによるだろう。

イスラム系テロ組織の捜査を進め、05年の2度目のバリ島テロ事件以来、大きなテロは起きていない。アチェの独立運動とは和解ができた。一時期、世界を騒がせたマラッカ海峡の海賊も沈静化した。

スハルト時代からの「KKN(カー・カー・エヌ)」と呼ばれる腐敗、癒着、縁故主義にメスを入れ、自らの近親者も摘発する潔癖さを見せた。

経済成長率は07年と08年、6%を超えた。世界大不況のなかでも内需が堅調で今年も4%台を見込んでいる。

4月の総選挙で、ユドヨノ氏が率いる民主党は前回の57議席から150議席に躍進した。単独で正副大統領候補を擁立できることになって、ユドヨノ氏は、スハルト時代の翼賛組織の流れをくむゴルカル党との連立を解消した。その党総裁であるカラ副大統領の代わりに副大統領候補に選んだのは、前中央銀行総裁のブディオノ氏だ。

ユドヨノ氏自身は国軍出身だが、改革派としてスハルト氏とは距離を置いていた。新体制は、スハルト時代と決別し、実務を優先した新しい時代の到来を予感させる。

インドネシアはG20メンバーとなり、国際社会でも存在感を増した。タイが相次ぐ政変で揺れるなか、ASEANのリーダーとしての期待も高い。

ブッシュ前米大統領時代の反米機運は、劇的に変わった。カイロでのオバマ大統領のイスラム教徒向け演説は、インドネシアでも好感をもって受け止められた。

オバマ氏が少年時代をジャカルタで過ごしたという親近感もある。米国にとってイスラム社会への足がかりになる国が存在する意義は大きい。

広大な国土の隅々に民主化の果実が届くには時間がかかるだろう。経済を成長軌道に乗せるには、投資環境やインフラ整備など多くの課題が残る。ユドヨノ氏の堅実な手腕に期待したい。
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[読売新聞] 農地囲い込み 国際的な行動規範が必要だ(7月12日付・読売社説) (2009年7月12日)

食料輸入国や食料確保に不安を持つ国が、発展途上国の農地を買収したり、借り上げたりする動きを強めている。

自国向けの作物を大規模に栽培し、輸入拠点にするためだ。世界的な食料価格高騰の再来に備え、安定した食料調達先とする狙いがある。

一般的には農業投資の拡大は食料増産や生産性向上に役立つ。だが、無秩序な“農地争奪戦”が過熱すれば、途上国などからの農作物の収奪につながりかねない。

イタリアで開かれた主要国首脳会議(ラクイラ・サミット)の首脳宣言には、農地取得に関する国際ルールを定めることが盛り込まれた。主要8か国は途上国や国連などと連携し、新たな行動規範づくりを急ぐべきだ。

農地取得に熱心なのは中東産油国と中国だ。豊富な外貨準備をもとに、アジアアフリカですでに10万ヘクタール単位の農地を手に入れ、小麦やトウモロコシ、綿花などを栽培する計画を進めている。

交渉中の案件も含めると、これらの国や企業が購入または賃借した農地は2000万ヘクタールに達するという。日本の耕地総面積の4倍強の農地が囲い込まれつつある。

農業開発の資金が不足している途上国にとって、農地の提供には、土地改良やかんがい施設の整備、新たな農業技術の導入といった利点がある。

一方、軍事的、経済的な圧力で、途上国側が不利な条件の下、農地を収奪されたり、無理な開墾によって水の汚染や生態系が破壊される問題も指摘されている。

国連食糧農業機関(FAO)は「農地や水を丸ごと買い上げるのは新たな植民地主義だ」と警告している。途上国側の農民の反対で取得を断念した例も出始めた。

こうした動きは、世界一の食料輸入国である日本にとっても、座視できない問題だ。

国際ルールの策定には日本も積極的に関与し、途上国の食料事情や環境に十分配慮したものにすることが肝要だ。食料輸出国による一方的な輸出規制に歯止めをかけ、貧しい国に食料が行き渡るよう努めることも大事だ。

日本が優先すべきは、農地争奪戦への参入ではない。40%にとどまっている食料自給率を引き上げることである。

国内には40万ヘクタールもの耕作放棄地があり、農業従事者も減少する一方だ。農地の集約や休耕田の再活用による農業の再生策も始まったばかりだ。自らの農地の活用こそ食料安全保障の王道だろう。
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[読売新聞] インドネシア 大統領再選で復活めざす(7月12日付・読売社説) (2009年7月12日)

インドネシア大統領選挙で、ユドヨノ大統領が再選を果たした。スハルト政権崩壊以降、4人目の大統領だが、再選されたのは初めてである。

東南アジアの大国でありながら混乱にあえいだ。本格的な復活に向け、国民が強い期待をユドヨノ氏にかけたのだろう。

選挙管理委員会の公式発表はまだ先だが、ユドヨノ大統領は6割を超す得票率を得て、今後5年間の続投を決めた。4月総選挙で、率いる民主党を第1党に押し上げた勢いに乗っての勝利だ。権力基盤をさらに強化したと言える。

選挙戦を見ると、大きな混乱はなかった。近年の州知事選や県知事選などの選挙と合わせ、民主化は定着しつつある。

ユドヨノ氏の再選は、国内の治安を確保し、安定的な経済成長への道を切り開いたことが評価されたためだろう。

昨秋来の世界金融危機のあおりで、今年1〜3月の貿易額は3割減となった。だが、国内総生産(GDP)の成長率は4・4%を記録した。マイナス成長の多い東南アジア諸国の中ではトップで、中国、インドに続く高い数字だ。

もともとインドネシアには、石油や天然ガスなど豊富な地下資源がある。中産階層が購入する自動車オートバイの販売額が昨年、過去最高に上るなど、旺盛な内需が成長を後押ししている。

しかし、依然として失業率は8%台に上る。毎年250万人に達する新規労働者の雇用確保のためには、年率6〜7%の成長が必要とされる。これが政権2期目の最大の課題になる。

インドネシアは金融危機に対処する20か国・地域サミット(G20)や「エネルギーと気候に関する主要経済国フォーラム」(MEF)にも、東南アジアを代表する形で参加している。

途上国など域内諸国の声をどう取りまとめ、協議に反映させていくか。その手腕が問われる。

バリ島などで頻発した爆弾テロは、イスラム地下過激派組織の摘発により、沈静化に向かった。

世界最多のイスラム人口を抱え、民主主義とイスラムの価値観を両立させたモデル国としての役割も期待されている。

日イ両国は国交樹立52年目を迎えた。昨年、経済連携協定(EPA)が発効し、インドネシア人看護師ら約200人が来日中だ。

日本にとって重要な投資先であり、政府開発援助(ODA)の最大の供与国でもある。ユドヨノ政権2期目の行方を注目したい。
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2009年07月11日

[東京新聞] 国産木材普及 消費者への目配りで (2009年7月11日)

「木を使う時代」と言われて久しいが、国産木材の利用はなかなか進まない。再生可能エネルギーの高価買い取りやエコカー減税などのように、消費者の琴線に直接触れる誘導策も必要だ。

一軒の木造住宅はその中に、鉄筋コンクリートの四倍近い炭素を閉じ込める。材料を作るときに放出する炭素は四分の一以下だ。国産の「木使い」は「低炭素社会」づくりの有力な材料だ。

木々は昼間、二酸化炭素(CO2)を吸収して酸素を出す。

京都議定書で課された、二〇一二年までに一九九〇年比6%というわが国の温室効果ガス削減義務のうち、3・8%は、森林吸収源で賄うことが認められている。ただし、新規植林以外の従来ある森林の場合、CO2吸収の機能を持続的に発揮できるよう、一定の手入れを施さなければ、吸収源には算入されないことになっている。

ただでさえ危ぶまれている京都議定書の削減義務達成は、森林の管理なしにはあり得ない。森林は、今のところは日本の温暖化対策の切り札なのである。

そこで政府は一昨年度から、毎年五十五万ヘクタール、六年間で三百三十万ヘクタールの間伐を進めている。森林を持続的に管理するには、膨大な人手と費用がかかる。国産の木材が安定的に利用され、森林が利益を生み出さなければ、管理を続けることは難しい。

国産材は輸入材に比べて高いと思われがちだが、北洋材(ロシア材)の高騰などの影響で、必ずしもそうではなくなった。

ただ、林業関連業界の全体的な衰退で、国産材では一定品質の用材を必要量だけ迅速にそろえることが難しく、ハウスメーカー側に敬遠されがちなのだという。

林野庁は、国産材の供給力を高めるため、木材搬出の道路網整備に特に力を入れている。しかし、森の中に立派な道路を造るだけでは肝心の消費者を動かせない。

補助金と減税の相乗効果で、エコカーは空前の売れ行きだ。太陽電池への補助復活と余剰電力の有利な買い取り制度をきっかけに省エネ、エコを家づくりの物差しにする人も増えてきた。

国産材利用への補助を打ち出す自治体や優遇を始める地方銀行も目立ち始めた。が、国の施策に消費者への目配りがまだ足りない。林道整備も大切だが、国産材を使えば消費者が得になるような新しい誘導策を提示しないと、「国産化」は進まない。
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[東京新聞] 最低賃金改定 現状維持では貧困残る (2009年7月11日)

本年度の最低賃金の改定審議が始まった。世界不況と業績悪化、失業者増加などこの一年で環境は激変した。だが、現状維持では働く貧困層の解消は遠のく。引き上げへ関係者の努力を求めたい。

「完全失業率が5%を超えるなど今年は雇用情勢が最悪。企業が雇用維持に懸命になっている中で最低賃金も引き上げを、とはなかなか言えない」−。政府関係者の発言は今年の審議の厳しさを物語っている。

中央最低賃金審議会(厚生労働相の諮問機関)は今月末をめどに「地域別最低賃金額改定の目安」を答申する。これを受けて地方最低賃金審議会は都道府県ごとの改定額を決め十月から実施する。

昨年は業績も春闘も順調。改正最低賃金法の施行で、最賃は「生活保護を下回らない水準」とすることなどが追い風となった。

その結果、二〇〇八年度は前年度比十六円アップして、全国平均で時給七百三円となった。

ところが今年は赤字決算企業が続出し、春闘での賃上げ率は六年ぶりに前年を下回った。

このため経営側は審議会で経営環境の厳しさを踏まえた議論を求めている。中小企業団体の日本商工会議所は「引き上げは困難」との姿勢をはっきり打ち出した。

一方、労働側は労働分配率の低迷や、東京都など一部地域で残っている生活保護水準を下回る最賃の解消などを理由に、昨年並みのアップを求めている。連合は働く貧困層(ワーキングプア)解消に向けて、中長期的に九百円以上とする方向を打ち出している。

最低賃金は「労働者が健康で文化的な最低限度の生活を営むことができる」賃金のことであり、本来なら景気や業績とは違った視点で決められるべきものだ。

単純に比較できないが四月の時点で、フランス千百三十七円、英国八百三十四円などとなっている。米国は今月二十四日から七百十八円に引き上げられる。

日本は仮に千円になっても年間二千時間労働で年収は二百万円である。その水準以下の労働者がすでに一千万人以上も存在する。最賃を引き上げることで、働く貧困層を少しでも減らす努力が重要だ。

厚生労働省の昨年末の最低賃金調査によると、調査対象事業所の6・6%で違反が認められた。政府は産業界・企業へ周知徹底させるとともに、将来の最賃のあり方を明示すべきだ。中小企業の生産性向上の施策も急務である。
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[日経新聞] 社説2 鳩山氏は国会でも説明せよ(7/11)

民主党の鳩山由紀夫代表は政治資金の虚偽記載問題について、いまだに十分な説明をしていない。6月末に公表した以外にも事実と違う記載が指摘され、会計担当者の動機など疑問点はなお多い。次期衆院選を控え、鳩山氏は国会の場でも自ら説明責任を果たしてほしい。

鳩山氏は10日に日本記者クラブで記者会見し、虚偽記載について「今後とも国民に説明しながら、選挙において審判を仰いで参りたい」と強調した。一方で担当したベテラン秘書の動機に関しては「解明されているわけではない。弁護士に任せるしかない」と述べるにとどめた。

鳩山氏は秘書が寄付金控除などの脱税や詐欺に関与した可能性を否定した。だが、国会の政治倫理審査会などへの出席に関し「現場や党の判断に従っていきたい」と否定的な考えを示したのは納得できない。

鳩山氏は6月末の記者会見で、自身の資金管理団体「友愛政経懇話会」の政治資金収支報告書に虚偽記載が多数あった事実を認めている。判明しただけで2005〜08年の個人献金のうち計2177万円、約90人分が事実と異なっていた。

すでに死亡した人や一度も献金をしたことがない人も含まれ、不正は秘書が一存で実行したというのがこれまでの説明だ。「架空献金」の原資はすべて鳩山氏が預けていた個人資金だとしている。

しかし、多くの偽装がなぜ行われたのかという理由はなお不明だ。鳩山氏は当初「(秘書には)個人献金があまりに少ないので大変だとの思いがあったようだ」と説明し、のちに個人献金はむしろ他の議員より多いと指摘されると「企業献金が集まらない焦り」と修正した。

自民党は鳩山氏の02〜04年の収支報告書を独自に調べ、訂正した個人名と同姓同名の献金が計906万円、47人分あったと指摘している。鳩山氏が弁護士や民主党に対応を任せると繰り返す姿は説明責任から逃げているような印象がぬぐえない。

民主党が主張するように自民党側にも「政治とカネ」を巡る様々な疑惑が浮上している。政権選択がかかる衆院選が近づく中で、与野党は事実を早期に解明し、有権者にきちんと説明する責務を負っている。
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[日経新聞] 社説1 温暖化交渉の外堀りを埋めたサミット(7/11)

中国の胡錦濤国家主席の欠席で主役の一人を欠いたものの、米欧主導で温暖化交渉がじわりと進んだ。

イタリア中部で開いた主要国首脳会議(ラクイラ・サミット)で、先進国の温暖化ガス排出量を2050年までに80%以上減らす長期目標が首脳宣言に明記された。主要8カ国(G8)は、世界の平均気温の上昇が産業革命以前から「2度を超えないようにすべきだ」との共通認識も初めて打ち出した。

中国やインドなど新興国も参加した主要経済国フォーラム(MEF)の首脳会議は新興国も含む世界全体で50年に温暖化ガス排出を半減する目標で合意を目指した。結果的には新興国側が受け入れず合意に至らなかったが、温度上昇2度以下の重要性は共有できた。

G8の「80%以上削減」は新興国を合意に誘うカードだった。今回は合意に導けなかったが、高い目標を掲げたG8の決断を評価したい。

米欧は「80%以上削減」と「2度以下」への言及で歩調を合わせた。温暖化対策だけではなく化石燃料の輸入依存を減らすエネルギー安全保障でも共通の意義を見いだしていることが背景にある。

オバマ米大統領は温暖化交渉の米政府の過去の対応について「責任を欠いていた」と述べ、今回の交渉をまとめることに意欲を示した。

気温上昇を2度以下に抑えることは温暖化による社会や経済の損失を最小限にとどめるのに欠かせない。国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の予測に基づき欧州がかねて主張してきた。これをG8が共通認識とし、MEFでも重要性を共有できた意味は大きい。

07年の国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP13)で2度以下へ抑制する削減シナリオが示されている。先進国に「50年に80〜95%」「20年に25〜40%」の削減を求めている。20年までの日本の中期目標は15%削減(05年比)。米国も議会で審議中の温暖化対策法案では17%削減(同)にとどまる。積み増しを求める声が一段と強まりそうだ。

中国やインドなどには主要経済国の一員として踏み込んだ決断を求めたい。2度以下の達成には排出削減の国際枠組みへの新興国の責任ある参加が不可欠だからだ。

日本はこれまで「50年に60〜80%削減」の長期目標を口にしながらも気温上昇については明確に言及してこなかった。80%以上の削減は米欧主導で決まった。「欧米を上回る」と政府が自負する中期目標では存在感を示せなかった。
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[毎日新聞] 社説:サミット 無用論退ける「首脳力」を (2009年7月11日)

「世界経済は回復に向かいつつあるが、油断は禁物だ」「貿易自由化交渉を早期に仕上げよう」「先進国と途上国の協調は双方の繁栄に不可欠」??。主要国首脳会議(サミット)の宣言がうたった。

ラクイラ・サミットではない。1975年、仏ランブイエで開かれた初のサミットである。第二次世界大戦後、最悪とされる不況、増え続ける失業者、保護主義の台頭??。当時の経済環境には驚くほど今と似た点が多い。だが、目に見える大きな違いがある。初回の参加首脳が日、米、西独、英、仏、伊の6人だったのに対し、35回目のラクイラは29人に膨らんだことだ。国連や世界銀行など国際機関の首脳も加えると総勢40人近い規模になった。

議題も経済、政治、地球温暖化、エネルギー、途上国支援、核軍縮、食糧問題と拡張し、宣言文や声明文は初日の8カ国による会合分だけでも80ページに及ぶ。ランブイエ宣言が2ページ程度だったのと大違いである。

官僚主導の交渉から脱し、国民に選ばれた政治指導者による首脳外交の復権を目指したのがサミットの出発点だった。しかし回を重ねるにつれ形式化し、再び官僚への依存が強まっていった。それに伴い「サミット無用論」が高まり、新興国を加えた「G20」体制への移行を唱える声も大きくなっている。

しかし、サミットそのものを不要と見るのは早い。主要国が協調しなければ解決できない地球規模の課題は多く、首脳の定例会合はむしろ重要度を増している。

問題は会議のあり方だ。密度の濃い議論をするには、もっと議題をしぼる必要がある。そうすれば発表文のメッセージ性も高まるだろう。官僚や閣僚にはできない、首脳ならではの討議に回帰すべきだ。サミットが事実上、拡大した今だからこそ、転換を急がねばならない。

そこで二つのことが問われる。第一は、先進国の貢献だ。仮にサミットの呼称が今後、「G8」から「G13」や「G20」になったとしても、まずはG8が解決策を提起し、率先して行動する責任がある。今回のサミットでは核問題と温室効果ガスの長期削減目標でG8が踏み込んだが、新興国の貢献を促すためには、自らが範となる努力とねばり強い説得がますます重要になろう。

もう一つは、首脳の力量「首脳力」である。議題の選定、議論のリード、調整力、世界に向けた発信力など、政治指導者としてのさまざまな力が一層問われることになる。

日本は存在感の薄さが言われて久しい。サミットの改革でも積極的にアイデアを出し、リードしていくことを期待したい。
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[毎日新聞] 社説:温暖化対策 「2度以内」の道筋作ろう (2009年7月11日)

一歩前進だが、十分ではない。ラクイラ・サミットで、主要8カ国(G8)に、中国、インドなど新興国を加えた「主要経済国フォーラム(MEF)」は、「気温上昇を産業革命前に比べ2度以内に抑えるべきだ」との認識で一致した。しかし、温室効果ガス削減の長期目標の数値は盛り込めずに終わった。

京都議定書以降の枠組み作りを決める「気候変動枠組み条約第15回締約国会議(COP15)」まで、残すところ5カ月。先進国と新興国・途上国は、「2度以内」を実現するための具体的道筋作りに、さらなる歩み寄りを模索しなくてはならない。

MEFに先立つG8首脳宣言では、「2度以内の抑制」に加え、「温室効果ガスを先進国全体で2050年までに80%以上削減する」との長期目標で合意した。昨年の北海道洞爺湖サミットには盛り込めなかった数値で、先進国として一定の覚悟を示すものとして評価できる。

背景には、新興国を含め「50年までに世界全体で半減」との目標に合意するための呼び水にしようというねらいがあった。米国が、温暖化対策に消極的だったブッシュ政権からオバマ政権に代わったことも合意を後押し、先進国の足並みがそろいつつあることは歓迎できる。

特に、「2度以内の抑制」は、科学者集団である「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」が描く最も厳しいシナリオに基づく。これを超えると世界に悪影響が及ぶというのがIPCCの指摘で、新興国まで含めて、科学的に温暖化防止のゴールを設定した意義は大きい。

ただ、この数値は責任分担を定めたものではない。MEFが「2度以内」で一致しつつ、長期目標に合意しなかった背景にも、削減の責任を避けたい新興国の思惑が見える。

確かに、歴史的には先進国の責任は重いが、中国やインドなどはもはや単なる途上国ではない。経済発展を遂げる国として、最貧国まで含めた地球の未来に責任がある。それを自覚した一歩を踏み出すべきだ。そのために、先進国は技術支援や資金援助を明確にしなくてはならない。

残念ながら、今回のG8やMEFからは、日本の温暖化対策の決意や戦略は、まったく伝わってこなかった。しかし、日本もG8の一員として合意した以上、責任がある。

気温上昇を2度以内に抑えるには、先進国が90年に比べ20年までに25?40%削減することが必要とIPCCは指摘している。6月に麻生太郎首相が示した削減の中期目標は、そうした根拠に基づくビジョンを欠いていた。COP15に向け「2度以内」と整合性のある政策を打ち出すべく、覚悟を新たにする時だ。
posted by (-@∀@) at 08:20| Comment(0) | TrackBack(0) | 毎日新聞 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする